2023.12.28
Joshin 試用レポート
トリプル出力モードを搭載したKANNシリーズの集大成!Astell&Kern KANN ULTRAの音を聴く
Astell&Kern デジタルオーディオプレーヤー KANN ULTRA
ポータブルプレーヤーとは思えない超高出力で、あらゆるイヤホンやヘッドホンを鳴らしてきた Astell&Kern KANNシリーズに、5代目となる『KANN ULTRA』が登場しました。
これまでの「KANNシリーズの集大成」と謳われた今作は、シリーズ最高峰の出力に、ヘッドホンとプリアウト/ラインアウト出力を分離させた「トリプル出力モード」を搭載。
外でも家でも"ものすごく良い音"を楽しめるオーディオプレーヤーに仕上がっていますよ!ライター:もあ
KANNシリーズ第5弾 Astell&Kern「KANN ULTRA」
セット内容 | 本体、USBType-Cケーブル、画面保護シート、microSDカードスロットカバー |
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サイズ(約) | 幅82.4×高さ141.1×奥行24.4mm |
質量(約) | 390g |
コーデック | Bluetooth5.3搭載、aptXHD/LDAC/LHDCに対応 |
数々のオーディオプレーヤー(以下:DAP)を手がける、Astell&Kern(アステルアンドケルン)の中でも異彩を放つKANNシリーズ。
満足な音を鳴らしにくいと言われるインピーダンス(※電気抵抗値)の高いヘッドホンやカスタムIEMの実力を十二分に発揮する、超高出力と低ノイズが特徴で、ポータブルプレーヤーらしからぬ存在感のあるボディも相まって「パワーのある頼もしいDAP」として人気を博しています。
KANNシリーズの歴史
KANNシリーズはこれまで「CAN(可能)」を意味する名の通り、ユーザーの「こうだったらいいな」を様々な方法で叶えて、ポータブルオーディオをさらに幅広く楽しめるものにしてきました。
KANN | 強力な高性能ヘッドホンアンプ&独立したライン出力端子を搭載。 外部アンプなしでハイインピーダンスのヘッドホンやイヤホンを鳴らす。 |
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KANN CUBE | DACチップ「ES9038PRO」を搭載して音の正確性が向上。 大出力と低ノイズ化を両立しハイエンドホームオーディオも満足に楽しめるようになる。 |
KANN ALPHA | 最大12Vrmsの高出力を維持しながら、持ち運びやすいサイズにコンパクト化。 4.4mmバランス端子を初搭載し使用できるヘッドホン・イヤホンの幅が一気に広がる。 |
KANN MAX | 最大15Vrmsの超高出力化と、シリーズ最軽量のコンパクトサイズを両立。 初のクアッドDAC構成でネイティブ再生に対応し、4段階のゲイン調整にも対応。 |
「KANN ULTRA」の特徴
『KANN ULTRA』は、超大型で据置用DACチップを採用し、本当にポータブルオーディオなのかと衝撃を受けた2代目「KANN CUBE」の正統後継機です。
「KANN ALPHA」以降コンパクト路線に向かうかと思われたサイズは、再び大型化しました。
1番の特徴は、従来通りのヘッドホン出力端子だけでなく、アンプなどに接続して高精細なサウンドを出力するプリアウト/ラインアウト用の端子を追加して、各端子に最適なサウンド設定を行う「トリプル出力モード」を搭載したこと。
これまで以上にアクティブスピーカーやパワーアンプなどでオーディオを楽しめるようになっており、据え置きで使う方も多かったであろうKANN CUBEを上手くブラッシュアップしています。
ヘッドホン出力の際は「KANN MAX」同様4段階のゲイン調整に対応し、出力レベルはシリーズ最高峰となる最大16Vrmsを実現!
DACチップは最新の「ES9039MPRO」をデュアル搭載してノイズと歪みを低減し、初めて採用する次世代型Octa-Coreプロセッサーと生まれ変わったUI/UXで操作性も大きく向上しました。
KANN CUBEの後継機という立ち位置ですが、性能面を見るとこれまでのシリーズの良いところを集めてさらにバージョンアップした印象で「KANNシリーズの集大成」と謳われるのも頷けます。
デザインとサイズ
本体はKANNシリーズらしいアルミニウム製の六角形の柱状ボディ。
光にあたると少し青みがかって見えるシルバーカラーで、触れると金属らしいひんやりとした質感と重厚感があります。
ワンカラーデザインや切り込みの入った側面からKANN MAXのようなスマートさを感じますが、ディスプレイサイズは5.5インチとDAPの中でもかなり大型の分類です。
広めのポケットならなんとか入っても、長時間入れっぱなしだと底が抜けそう・・・と思うくらいにはズッシリとしているので、持ち運びはバッグ推奨です。
これまでは右側面に配置されていた、KANNシリーズお馴染みのLEDを搭載したボリュームホイールは、KANN ULTRAでは背面に埋め込まれています。
シリーズ愛用者は背面のデザインに違和感を覚えそうですが、本体を握った状態で親指をかけやすく、慣れると操作は断然やりやすくなったように思います。
個人的には、再生中の曲のビット数やボリュームの状態によって変化するLEDの色がより目に入りやすくなったのに喜びました。
本体を平置きにした場合は接地面との引っ掛かりがありますが、下が柔らかな布でなければ問題なく使えますよ。
KANN CUBEと並べてみました。
高さはほとんど同じですが、厚みが抑えられて質量も100g以上軽量化しています(KANN ULTRA:約390g、KANN CUBE:約493g)。
さらにKANN ULTRAの斜めにカットされた側面が手に馴染んでとても握りやすく、実際に持って感じる重さにはギャップがありました。
一見似たサイズ感ですが「持ち運びやすくなったKANN CUBE」と言えると思います。
そして個人的に1番驚いたのですが、KANN ULTRAでは2.5mmバランス端子が廃止されています。
2.5mmバランス端子はAstell&KernのDAPには永久に搭載するだろうと勝手に思っていたので、これは本当にビックリ。
改めて、シリーズ5代目という歴史の移り変わりを感じます。
再生時間は最大約11時間
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充電時間 約3.5時間(PD3.0充電時) 再生時間 約11時間
(FLAC,44.1KHz/16bit,Vol.50,LCDオフ,アンバランス出力,低ゲイン)バッテリー容量は8,400mAhとしっかりありますが、大型化した影響かKANN ALPHA/MAXより連続再生時間が短くなっています。
しかし約11時間は一般的なDAPとあまり変わらず、KANN ULTRAは据え置きプレーヤーとして使う方も多いと思うので、バッテリー持ちはあまり気にならないのではないでしょうか。
トリプル出力モードと4段階のゲイン設定
天面には3.5mmシングルエンド/4.4mmバランス端子が、プリアウト/ラインアウト用とヘッドホン出力用にそれぞれ独立して配置しています。
端子を分けることで回路を分離させ、さらに「TERATON ALPHAテクノロジー」でそれぞれに適したサウンドを設計することで、どのオーディオ機器を使ってもベストな音を楽しめるようになりました。
プリアウトとラインアウトはどちらもアクティブスピーカーやアンプなどと接続するものですが、プリアウトはKANN ULTRAで音量調整が可能、ラインアウトは音量固定でアンプを介さずに直接出力するためノイズが最も少なくなるという違いがあります。
スピーカー側で音量調整ができるならラインアウトで接続したいですね。
この2つのモードは設定画面から切り替えできます。
ヘッドホンやイヤホンを誤ってプリアウト/ラインアウト端子に繋ぎ、ラインアウトに切り替えると爆音が流れますのでご注意ください(切り替え前に「出力しますか?」というポップアップが表示されます)。
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ヘッドホン・イヤホンで音楽を楽しむ際は、LOW/MID/HIGH/SUPERの4段階から適した出力レベルを選択できます。
最大出力はバランス接続時にSUPERを選択した時の16Vrmsで、KANNシリーズだけでなくAstell&Kernのプレーヤー全体での最高レベルを更新しました。高ゲインになると気になるノイズは出力端子の電流処理能力向上により抑えられており、KANNシリーズらしくヘッドホン・イヤホンの本来のポテンシャルを充分に発揮できます。
より使いやすくなった最新のUI/UX
テーマカラーがブラックと相性の良い「クリムゾン(濃い赤色)」になりクールさと視認性がアップ!
音楽カテゴリーや音源の種類、プレイリストから楽曲をスムーズに探し出せます。
今回から追加された、特定の曲を聴きながらアルバムアートを次々と眺められるギミックも面白いです。
SpotifyやAmazon Musicなどの音楽ストリーミングサービスアプリは、設定画面の「サービス」から簡単にダウンロードできます。
「デジタルオーディオリマスター(DAR)」機能を搭載したことで、再生音源がリアルタイムにアップサンプリングされ、ストリーミングサービスの楽曲もいい音で楽しめるのもポイントです。
Octa-Coreプロセッサーを搭載したことで動きがとても滑らかになって、アプリもストレスなくサクサクですよ。
【音質レビュー】シリーズ2代目「KANN CUBE」と聴き比べ
イヤホンqdc「SUPERIOR」とヘッドホンULTRASONE「Signature PURE」を組み合わせて、KANN CUBEと聴き比べしてみました。
KANN CUBEはナチュラルな高音質を鳴らすものが多いKANNシリーズの中では珍しく、とにかく力強い元気な音を鳴らすイメージで、今回のKANN ULTRAもパワー強さに衰えは全く感じません。
S/N比が高くなってノイズが抑えられたため全体的に解像度が上がり、クラシックなどを聴くと1つ1つ楽器の繊細な音を丁寧に拾い上げ、強弱の表現がより際立っているように聴こえます。
特にクリアになったと感じたのが中高域で、ピアノやボーカルの音に注目して聴くと今どちらのDAPで再生しているかすぐに分かりました。
低域の沈み込みと力強さや、テンポの速い曲でも流れ気味にならないしっかりとした音の粒立ちはKANN CUBEに近いものがありますが「自然な良い音」と感じるのは圧倒的にKANN ULTRAです。
音のスケール感も向上しており、特に密閉型ヘッドホンながら音場の広さが特徴の「Signature PURE」では、ホール会場にいるような広大なサウンドと正確な音の定位置を感じられました。
正直音のスケール感はKANN CUBEを超えるのは難しいのではと思っていたので、ノイズがなくなることでここまで音が広がるのかと驚愕しました。
4.4mmバランス接続で聴いてみた
イヤホン「SUPERIOR」を4.4mmバランスにリケーブルして聴いてみると、音のキレが良くなり膨大な情報量の音が迫ってくる感覚を味わえました。
楽器の音やボーカルがより鮮やかになったのには「まだクリアになるのか!」と叫びましたが、ギュッと引き締まった低域と伸びやかな中高域、吐息まで聴こえる生々しいボーカル、全てが無理に出している感のない自然な音で、ものすごく聴き心地が良いです。
疾走感のある曲では輪郭がハッキリしすぎて少し硬めな印象を受けることもありましたが、バラードやゆったりとしたジャズでは広大なサウンドが溶け込んでいく様子を楽しめ、KANNシリーズらしい「原曲を丁寧に鳴らす」という所は一貫していると感じます。
パワーはかなり強めですがKANN ULTRA自体に曲の雰囲気を変えるような味付けはあまりないように思うので、様々な個性を持つヘッドホンやイヤホンで異なる音色を聴くのが楽しかったです。
まとめ
接続するオーディオ機器のポテンシャルを充分に発揮しながら原曲を美しく鳴らすKANNシリーズは、その聴き心地の良さから「この音でないと」という中毒性がかなり高いDAPという印象があります。
今回の『KANN ULTRA』はシリーズの中でも異端な位置にいる2代目「KANN CUBE」後継機とのことで、DAPでこのサイズは挑戦的すぎる!と思いましたが、トリプル出力モードの搭載によりシリーズで1番ホームオーディオを楽しめる内容になっていました。
KANN CUBE同様「これはポータブルプレーヤーではないのでは」と言いたくなりますが、持ち運べない重さではありませんしKANN ALPHA/MAXのコンパクトサイズを経て「持ちやすい形状」に進化しています。
家でも外でもいい音を楽しめる機種で「CAN(可能)」の実現があまりにも上手いと感動しました。
鳴らしにくいと感じるヘッドホンやアクティブスピーカーをお持ちの方は、ぜひKANN ULTRAの高出力を実感していただきたいです。
ノイズのない環境で、曲の持つ表現力を存分に味わってください。 2023.12.28 (もあ)