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ギュービッグ 大山店 オーナー 中原 高志さん

Meicho Interview Alacarte

Vol.1

家族を結びつけた店を、
後世に受け継いでいく

ギュービッグ 大山店 オーナー / 中原 高志さん

焼肉 ギュービッグ 大山店

個人店らしい、
柔軟で融通のきく接客を

とはいえ、昔からそうだったわけではない。 父がオーナーだった頃、厨房で調理を担当していた中原は、厨房に引きこもるかのように働くのが常だった。自分の仕事が終われば、一服するなり、居眠りをするなり、接客には我関せず、という姿勢を通していた。父から「外(ホール)に出て、お客さんの顔を覚えろ」と注意されても、その必要性に理解が及ばず、反発するのが常だった。自分が間違っているとはつゆほども思わなかった。

「経営者になった今なら、お客さんと触れ合うことや店全体を見ることが大事だとわかります。「調理から接客まで、全部やれ」と親父からは教わったけれど、お客さんとの距離が近いという個人経営の強みを活かせるのが接客です。店主の人柄が客を呼ぶ、という公式を証明していた親父は、そのことを理屈ではなく、身体でわかっていたのかもしれません。

実際、経営者になって、初めて来たお客さんと話すことを心がけていたら、以来ずっと来てくれたり、僕の携帯に予約の電話をかけてくるお客さんが出てきたりと、変化が表れました。そこで昔の自分が間違っていたことに気づいてからは、親と喧嘩をすることもなくなったんです」

いまや中原は、個人店の強みを最大限活かそうとする経営者になっている。カルビの枚数を一枚増やしてほしい、一枚減らしてほしい、という要望にも、価格を上下させることで対応する。ボトル売りをしていない酒でも、ボトルを入れたいという要望があれば、断ることはほとんどない。

「大事にしているのは、チェーン店ではできない、柔軟で融通のきく接客です。カシス系のお酒もソーダもあるのに、メニューにないという理由でカシスソーダが通らなかったりするのが、僕は嫌なんです。もちろん限度はあるけれど、なるべくお客さんの要望に応えたいですね。その姿勢が新メニューの開発につながるかもしれないし、過去にはそれが実現したケースもありますから。

だから、アルバイトにも社員にも、自分で判断せず、まずは僕に報連相を持ちかけるように指導しています。で、承諾するにせよ、断るにせよ、(特に店長には)理由を必ず説明します。一度や二度言っただけではわからないでしょうし、お客さんの要望も多種多様なので、何度でも繰り返し説明するようにしています」

新人に仕事を教えるときも、そのスタンスは変わらない。極端な例を挙げれば、冷蔵庫を開ける順番ですらも、その理由を含めて一から説明する。

「仕事の手順を伝えるだけでは理解できない子もいるので、いつからか、新人の子にはすべての仕事を理由とセットで説明するように統一しました。僕の考え方なり大山店の考え方をみんなに浸透させたいので、僕が求めているレベルに至っていなければ、うやむやにはせず、しつこく言います。

ただ、それぞれが持っている個性は伸ばすようにしています。四六時中、きつい口調でバイトスタッフを叱っていた、経営者になりたての頃の自分への反省もあるので、叱るだけにならないようには、常々意識しているんです」

ひとりでも多くの人に
「ギュービッグ」を

焼肉 ギュービッグ 大山店2009年、父から店を受け継ぐにあたり、唯一、中原が大きく軌道修正したのが、客との付き合い方だ。

客からも従業員からも「マスター」と呼ばれる父と「ママ」と呼ばれる父の妻。客の席について一緒に酒を飲むなど、ふたりの接客は「仕事」という枠に収まるものではなかった。営業時間も定めず、客がいないときには早い時間に店じまいをし、客がいれば、朝の4時、5時まででも営業を続けた。特定の常連客が入り浸る店は、さながらスナックのような雰囲気だった。

「それだけはどうしても好きになれなかったんです。店員とお客さんが親密すぎると、はじめて来店されたお客さんは入りづらくなってしまいます。だから、代が変わってからは、どのお客さんも平等に接客するようにしました。そのなかでも馴染みのお客さんにはよりよいサービスを提供したり、融通をきかせたりと、最大限配慮するようには心がけているんですけどね」

土日の混雑時など、空席待ちが出るときには2時間制を敷くようにしたのもその一環だ。一組でも多くのお客さんに食べてもらうことを優先すれば、そうせざるを得なかったのだ。

『「今日を逃せば食べられない」といって来られる地方のお客さんや、帰郷した際に食べに来てくれる昔のお客さんがせっかく楽しみにして来られたのに、食べられなかったら申し訳ない。そういう方針に変えてから離れていったお客さんもいますけど、それはもう仕方のないことかなと。

ただ、お客さん第一で、満腹になって気持ちよく帰ってもらうことを軸に据えているところは親父と変わりません。「安い値段でたくさん食べられる店」、「目でも楽しめる店」といった店舗理念しかり、親父の背中を見ながら働いているなかで、必然的に思いを共有するようになったところもあるでしょうね。

親父は自分の思った通りにやるというか、少なくとも経営者という感じではなかったかなと。休暇をとることはほとんどなかったし、遊びに行くといっても、店のまわりのスナックで飲み歩く程度。

そもそも離れて暮らす息子たちにも会いに来ないくらいだから、根っからの仕事人間だったんだと思います(笑)。病気でほぼ視力がない状態になったときにも、店に出て洗い物や米研ぎの仕事をやってくれていましたしね。

そんな親父は、子どもの頃、僕が自分の進路や目標を告げても、「お前の好きなようにしろ」としか言わない人でした。バブル期で儲かっていたこともあってか、欲しいものをねだって、却下されたこともないんです」

家族を結びつけるもの

腰掛けのつもりは毛頭なかった。これからはずっと、ギュービッグ大山店で働いていくんだ――。16年前。イタリアンレストランを退職した23歳の中原の胸には、そんな覚悟めいた決意が宿っていた。

直接的なきっかけとなったのは、祖母の死だった。しっかりしなきゃいけない、家族を大事にしなきゃいけない――。母親代わりとなり、ほぼ女手ひとつで育ててくれた祖母を失ったことで芽生えた思いも背中を押しただろう。

「でも一番大きかったのは、親孝行したい、親父の助けになりたいという気持ちですね。10代の頃、素行の問題で親父にはさんざん迷惑をかけたので、自分の罪を償うような気持ちもあった、というのが正直なところです(笑)」

家族を結びつけるものは、ひとつ屋根の下で生活を共にした時間ではなかった。中原の脳裏には、幼い頃から父がしきりに口にしていた願望がよぎっていた。

「ギュービッグをチェーン展開して、もっと大きくしたい。そのためには、中原家でまとまってやればいいんじゃないか」

横浜の焼肉屋で雇われ店長を務めていた父は、ギュービッグを創業する前、兄弟に「一緒に焼肉屋をやらないか」と持ちかけている。けれども話はまとまらず、(仲違いしていたわけではないが)それぞれが独自で店舗を経営する形となっていた。

それから20年近く。先に父の願いを叶えたのは、弟だった。

「親父の店を継ぎたい」と、弟が本店でアルバイトとして働き始めたのは中学時代のことだ。ギュービッグ2店舗目の大山店は、身の振り方が定まらない長男のために父が用意した場所でもあったのだろう。

「育てられてはないけど、僕も弟も親父が大好きだったんです。親父は家に帰ってこないから、休みの日には弟と店に遊びに行って焼肉を食べたりしていました。どうして家にいないのか、疑問に思ったことはないし、いわゆるマイホームパパに憧れたこともないんです」

焼肉 ギュービッグ 大山店小学生から中学生までの間、夏休みは毎年、家族旅行に連れて行ってもらった。正月は毎年、中原家で集い、食卓を囲んだ。ギュービッグで働き始めてからも、父とふたりで温泉旅行に行ったこともある。

接点は少なかったものの、その存在は大きかった。衝突したことも一度や二度ではないが、尊敬する人でもある。褒めるという言葉を知らないような父から褒められたい、という思いは、中原がギュービッグで仕事に励む大きな原動力だった。

「といっても、僕は今のところ、フランチャイズ展開していくつもりはありません。ここでしか食べられない焼肉屋、という方が僕は好き。マニュアルを用意せざるを得ないとなれば、柔軟で融通のきく接客も失われていくように思いますしね」

2009年、ギュービッグ大山店のオーナーになる機会は唐突に訪れた。父が妻とともに新規の店を出店することになったのだ。

ともに働いた10年近い月日があったとはいえ、経営のいろはも知らない新米オーナーには、淡々と目の前の仕事をこなしていくより他はなかった。よりよい店舗運営について考えるなり、実践するなりし始めたのはここ4,5年のことだ。

それでも当初クーポン付きのチラシを発行するなど、父が嫌っていた広告に赤字覚悟で投資したのが功を奏した。5%でもいい、1%でもいいから、リピーターになってもらえればいい。とにかく、店に一度来てもらわないことには始まらない――。

分母を増やそうとした試みが、右肩上がりの売上増として結実。6年前、弟や店のスタッフと、DIYで木を基調としたアメリカンな内装に変えたこともその成長を後押ししただろう。父がいた時代に比べれば売上も2倍以上に増し、常時1人か2人しかいなかったアルバイトも7人に増えた。道半ばながらに手応えを感じている中原は今、過去からは切り離されることのない未来を見据えている。

「いまの僕の仕事は、できる限り創業時から店の味が変わらないようにすることかなと。親父から受け継いだ大山店は、僕が死んでからもずっと、生き永らえてほしいですから」

(取材・文/中道達也)

shop information
焼肉 ギュービッグ 大山店

焼肉 ギュービッグ 大山店
東京都板橋区熊野町43-11
TEL:03-3956-0089
営業時間:17:00~翌1:00 夜10時以降入店可
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)

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