みなさんご存じ、わらびの新芽です。
日本人なら誰もが馴染み深い食材である「わらび」。そのシダ植物の山菜は、世界の熱帯と温帯に広く分布し、日本でも日当たりのよい山々や野原に自生する多年生の植物だ。 その先端がくるっと巻かれた新芽を積み、食用とされることで馴染み深いわらびは、お菓子の「わらび餅」の原料でもある。しかし、わらび餅の原料となる「本わらび粉」は非常に希少とされ、手に入りにくい高級材料とされている。 今回はその「本わらび粉」の謎に迫るため、九州鹿児島を旅してきた。 |
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鹿児島本わらび粉編- Kagoshima Prefecture -
文=北川聡 Text by Satoshi Kitagawa
蕨(わらび)と葛(くず)の生産は
鹿児島に集中している
わらび粉(食用の蕨(わらび)ではない)の産地といえば、国内ではほとんどが南九州産である。奈良県産や岐阜県飛騨産もあるが、今ではかなり少ないとされている。
同じく、葛(くず)の産地も鹿児島に集中している。国産葛の97%以上が鹿児島県産ということで、断トツの1位ということになる。
この南九州以外の産地では、堀り子と呼ばれる、葛や蕨の根を専門に掘る人たちの高齢化や、山深くまで入り込み根を掘る重労働によって、堀り子さんが減少し、それに比例して年々各地で取れる量が減ってしまい、管理されないまま放置される状況が広がっているようである。
今では国内産は蕨も葛も生産量が大きく減ってしまっているのが実情のようだ。
収穫を終えたばかりのわらび畑。
畑には表示看板が立てられていた。
こちらは葛の栽培農場。
まだ葛の根が畑の中に。
垂水市海潟より望む桜島。
土の中に埋もれた蕨の根。
減りゆく生産に歯止めを!
自社生産も手がける廣八堂を訪れた
今回、蕨や葛の生産地を紹介していただいたのは、鹿児島に精製工場を構える「廣八堂」さん。
本来、雑木林の木にまとわりつくように自生する蕨や葛を、畑で栽培することにトライされている。畑栽培がうまくいけば、生産の安定化や堀り子の高齢化への不安も和らぐとのこと。
蕨の根は十二月から二月上旬にかけての寒い時期に採取される。この畑はすでに採取された後。採取された蕨の根を見に、廣八堂さんの工場へと向かった。
蕨の根は葛と比べると…。
工場に着くと、建物の前には大きなゲージが。
「こ、これは何ですか??」
「葛の原料です」
大きな籠の中にはたくさんの葛根が。見るからに逞しいサイズ。太いものになると直径50cmにもなるものもあるとか。その横では、今まさに採取した葛の根を持ってこられた堀り子さんがトラックから運び込もうとされていた。
「葛の根はこんなに立派になるんですね」
「蕨の根はどこにありますか?」
「葛に比べて、蕨の根は見たら驚きますよ。こちらにあります」
そういって連れて行かれたところにあったのは・・・。
「葛に比べてとっても細い!!」
「これだけ細いとでんぷんが取れる量もわずかというわけですね」
「そういうことです。葛も貴重ですが、本わらび粉は原料全体から約5〜6%しか取れないのです」
「なるほど。だから貴重なわけですね」
葛と比べると、明らかに貧弱な根っこが蕨の根です。その根っこが何度も細かく砕かれてゆきます。
葛の根が入ったゲージ。
洗浄中のわらびの根。
葛の根を持ってこられた堀り子さん。
何度も何度も
精製に手間暇かけて
まずは原料の洗浄から。
その後、粉砕機へ。回転篩(ふるい)による篩分けを行われる。
それが終わると、再度磨砕(まさい)し、タンクへ貯留する。取り出した原汁を約2週間ほどかけて何度もろ過することで、精製されていくそうだ。
1.回転篩で篩分けされていく
2.細かくなった蕨の根
3.タンクで貯留
4.プールで沈殿させてろ過
1.原料の洗浄中
2.洗浄中の葛の根
3.大量の水で圧搾と破砕を繰り返す
4.細かなメッシュで粕液を分離
5.沈殿させられた状態
6.水平脱水ベルトに入るところ
洗浄から抽出、精製まで
厳しい品質管理
こちらは本葛粉の精製工程。原木が大きい分、機械の大きさも作業工程も多い。
まずは原料の洗浄から。そして粉砕機にかけられ、圧搾(あっさく)と破砕(はさい)工程が繰り返される。何度も粕液分離工程を繰り返して、成分を抽出し、砂や金属も取り除き、沈殿させて精製された液を最後は水平脱水ベルトで下から水分を強制的に抜いていくそうだ。
最後に乾燥工程を経て完成。出来上がった製品は品質管理で厳しくチェック。こうして本わらび粉や本葛粉が世の中に出荷されるとのことだ。
7.水分が50%抜けた状態
8.水平脱水ベルトを出るところ
9.品質管理で色や風味をチェック
本わらび餅の本当の美味しさを
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Text by Satoshsi Kitagawa. © 2006- Kisshoan, Kyoto. All rights reserved.