大ヒットを続けるCORBO.(コルボ)キュリオスシリーズ。シリーズ発売から10周年を迎えた今、
あらためてその魅力に迫るべく、キュリオスシリーズを世に送り出した3人にお話を伺いました。
大ヒットを続けるCORBO.(コルボ)キュリオスシリーズ。シリーズ発売から10周年を迎えた今、あらためてその魅力に迫るべく、キュリオスシリーズを世に送り出した3人にお話を伺いました。
インタビュアー:店長 金山、平
使い込まれ、絶妙な経年変化を見せるキュリオスシリーズの財布・キーケース。
今日は宜しくお願いいたします。まず、キュリオスシリーズが生まれた背景をうかがえますか?
なるほど。まさに革を作るところから、始まったんですね。
そうです。
それまでは、自分の感じた事を表現するために、一人で作品をデザインしていたんです。それもとても大切なんですが一人で表現することに、なにか物足りなさや無力感を感じ始めていた時期でもあったんです。
ちょうどその頃、革屋、金具屋、鞄職人、財布職人、バイヤーやお店の方など、私のまわりに2代目3代目など若い世代が現れはじめていました。
若い世代ですか?
はい。それまでは、若い世代…彼らの物事に対する反応や嗜好性、私と彼らとのギャップには、正直なところ全く興味がなかったのですが。自分だけの表現ではなく、若い世代の彼らに好奇心と興味を持って向き合う、「好奇心」をコンセプトに創り出すのはどうだろうか?と視点を変えたんです。
これがシリーズ名『 Curious 』( キュリオス・好奇心 )の由来なんです。彼らの意見を聞き入れながらやってみよう!と思ったんです。
それが、全体として、チームで作るという感じになっていった。そうした作り方は初めてで、キュリオスは私にとって大きな転機となりましたね。
タンナー(製革所)にて。革職人の皆様と、皮を鞣す(なめす)『太鼓』と呼ばれる機械。
『太鼓』から取り出された革を積み上げる、革職人の皆様。
出来上がった、キュリオスの皮革のオレンジ色と、二つ折り財布 8LO-9933 。
キュリオスを他の革と比べたとき、最大の違いはなんですか?
経年変化を短期間で楽しめる、銀擦り皮革(※注)という点です。普通の革が経年変化して出る艶と、銀擦りの革が経年変化して出る艶とでは、艶のハイライトが全然違うんです。
ただ、表面に塗装などをして皮膜を作らない銀擦り皮革は、色落ちからは逃れられないんですね。色落ちを容認しない限り、先に進む事は出来ないんです。
(※注:皮革の銀面を極細かいヤスリで軽く擦り起毛させる技術)
逆に、色落ちを容認さえすれば、あらゆる表現が可能になるんです。色落ちはするんですが、そこを通り抜けると凄く良い表情になるのが分かってて作っています。色落ちはそのうち落ち着いてきます。
一番ベストな表情になる、感性を求めるならこれしかない、というポイントを追求しているんです。だから、キュリオスは素晴らしい経年変化が楽しめますよ。
繊細な色合わせに用いられる、葉っぱ状のキュリオスのカラーサンプル。
入念にカラーサンプルをチェックし、色合わせをしていきます。
色合わせが非常に難しい、ワックスを塗った時点でも決まらず、最後の工程でも色が全然変わってきます。色合わせには、苦労してきました。
普通の革には最後に色調整っていう修正工程があるんですが、キュリオスにはそれがないんです。 最後に指で擦って、焦がした色を見て検品するんです。それを見るまで分からない。
キュリオスのレシピって、数値化できないんですよね。 染色のための薬品を、小さじ何杯…みたいな世界じゃなくて(繊細な色チェックの時には)毎回同じ光で見ないといけないし、照明の加減とか、自然光が入っているかどうか、見え方は人によっても違うから、全員に同じ色が見えてるわけじゃないんです。
感覚が頼りだから、この3人でイメージを共有していないと、この皮革の微調整は出来ないんです。
ロールでワックスをかける工程。ここでワックスがきれいに入るかどうかが、非常に重要なのだそう。
完成品じゃないんですよね、キュリオスは。理想の経年変化を想定しながら、常に手探り状態でやってる。
最初の頃は、革の色がめちゃくちゃ濃くなったり、逆に思いのほか薄くなったりしました。ワックスの量がおかしくて真っ白になったり、ロールでワックスをかける工程でも、(機械の設定や職人によって)ワックスの入り方が違ってしまいます。
春夏秋冬でも違ってきますね。気温や湿度によって、皮革へのワックスの入り方が全然変わるんです。最初の頃の冬場は、それがわからなくて苦労しました。
寒いとロウは早く固まって、革に入っていく深さが浅く白っぽくなる。夏は暑いからロウが溶けて、革の中までギューッと深く入ってしまう、そのせいで、表に残るロウが少なくなるから、色が濃くなる。
仕上がりが変わってしまう訳です。この原因に辿り着くまでかなり時間がかかりました。山口さんと船津くんのお陰です。
当時は、作る度に全然違う色になったりして。最初の頃は本気で怒ってましたもんね、古瀬さん(笑)
Curious(キュリオス)デビューの展示会ギリギリで、こんなの作ってきたかーっ!みたいな(笑)
結局、展示会は(キュリオスは)1色でやったんですよね。ブラウンだけは完成していて。ブラック、カーキ、ダークブラウンは色出しの仕上がりが全然違う。それで、ブラウン1色でやりましたね。
左から、キュリオスのカーキ、オレンジ、ブラウン色。
折角そこまで辿り着いたから、どうしても皆さんに見て触ってもらいたかった。…カタログも1色で刷りました。
だから「どれが求めてるキュリオスなんだっ?」ってやりました。どこを求めるんですか!と(笑)
見た目はどれもほぼ同じに仕上がっていても、タッチ感がこう、シボ感がこう、起毛感がこう、っていうイメージの共有にはとても時間がかかりました。まさに手探りで。
キュリオスの命とも言える、ワックスも凄い種類があるので、膨大な中から見つけ出すのも大変でした。
イタリアから輸入された薬品、ワックスの数々。
ワックスも本当に凄い数がありますよね。
イタリアの薬品(ワックス)は本当に凄い。彼らは日々開発していますから。膨大な数のワックスの中から、試行錯誤の末に、その中の1つを見つけ出した。それが今のキュリオスに使われています。
ぬるっとした感触がでないとか、焦げるけど弱いとか、しっとりとしたタッチ感がないとか、やっぱりこのワックスでないと駄目なんですよ。ここまで焦げる、経年変化するワックスは、正直なかなか無いです。
ワックスが焦げるというのは、何が起きているんですか?
ワックスはもともと熱とか摩擦で灼ける、焦げるものなんですね。
他にも、べース鞣しのタンニン(渋)との相性もあります。タンニンってもともと灼けるじゃないですか。
特にキュリオスは銀擦りで軽く起毛させる、ワックスが入る、起毛が寝る、この3段階も加わって色も艶も出やすくなっています。
ペーパーは何回かけたらいいのか、肌目があるので、尻側から擦ってから、今度は頭側からもう一度擦った方が良いのかとか。
それもやりましたね!
バタ振り機と呼ばれる日本特有の機械で、革をつまんで上下にバタバタと振り、柔らかくする工程。
バタ振りをすることで、シボが現れ、ロウが割れて、キュリオス独特のスモーキーな表情が出てくるのですが、これも色によって違います。
ブラックだと硬いから、(バタ振りを)長めの5分にしようとか。カーキは柔らかいから、短めの2分にしようとか。 1つ間違ったら全然違う革になってしまいます。
革に揉みをかけ、入念に仕上がりをチェックしている船津氏。
あと、揉み方とかもありますよね。
例えば、ブラックは少し白くなり過ぎる場合があるので、極軽くアイロンでプレスします。一回フラットになるんですが、今度は真っ黒になっちゃうので、ぼかす程度に手で優しく揉んで微調整します。
他の色でも必要な場合は手揉みで調整します。 そうすると、キュリオスの色になってきます。うちの後輩にも、革の揉み方の指導をしましたからね(笑)
(笑)…本当に、キュリオスにはどれだけ手をかけて来たか分からないですね。常にメンバーでイメージを共有していないと出来ない、繊細な表現の革なんです。
永く使い込まれた経年変化が美しい。山口様ご愛用の、キュリオスの長財布 8LO-9934 ダークブラウン色。
10周年を振り返って、いかがですか?
10年間、あっという間でしたね。大変だったけど面白かった(笑)。でも、そうやって出来上がったキュリオスは、自信を持っておすすめできます。
革以外の部品や、作りの職人さん達の方でも、生産や修理で培った技術と情報をチームにフィードバックさせて、常に工夫と改良を続けて下さっています。例えば、糸だって当初のものより強度が上がっているんですよ。
色落ちする革っていうのは、当時の常識ではありえないような事で、本当に不安なところからスタートしましたね。
当時の市場には絶対向いていなかった(笑)。でもキュリオスは、革としての完成度は非常に個性的で良いんです。
これまでに一度も、お客様から色落ちに関するご指摘をいただいた事がないんです。色落ちより、経年変化の魅力の方が優っているんだと思います。手入れも楽ですしね。
そういえば、原皮が変わってしまった事がありましたね、ワックスが手に入らなくなった事もありました。 それまで折角、繊細に積み上げてきていたので、変えるわけにはいかなかったから、うわーっ!てなりましたねぇ。
そうだったね。原皮の値段が上がってきてどうする?っていう時期もあったし、ワックスが手に入らなくなった事もありました…。
じゃあ、似たような薬品を使うか?となったりもしましたが、キュリオスは繊細で微妙な加減で仕上げているので、レシピを変えて作ってみたりしても、似たものは結局似たものでしかなくて、駄目でした。
ありがとうございます。最後に、一言メッセージをいただけますか。
10年間、たくさんの方々がキュリオスのイメージを大切に共有して下さって、数々の危機に直面するたびに、関わってくださる皆さんが、自分事としてキュリオスを守って下さいました。今も試行錯誤を重ねながら、今のキュリオスを作り続けています。
今回は、キュリオスの要である皮革を、縁の下で支え続けてくださっているお二人をはじめ、製革に携っていただいている皆さんをご紹介する事ができて、心から嬉しく思います。
この機会をくれたSentire-Oneの皆さんに心から感謝しています。ありがとうございました。
そして今、キュリオスをご愛用いただいている皆様へ、最大の感謝の気持ちをお贈りします。
キュリオスは使われて初めて完成する皮革です。まだ手に取っていないお客様にも、ぜひ興味をもっていただければ嬉しいです。
後輩たち・次の世代への好奇心から始まったキュリオスですが、10年が経ち、彼らもそれぞれの立ち位置でベテランの域です。これからも、まだまだ精進して参りますので、よろしくお願いします。
『Curious(キュリオス)』デビューの展示会カタログに掲載された、コンセプト写真と文章をご紹介させて頂きます。
Curious(キュリオス・興味・好奇心)
興味や好奇心は視点を変える事で無限に広がる。
最近は空から烏の視点で見渡しても陽炎(かげろう)の様に照準がぼやけて見える、
と思ったら実物が揺れている・・・目は閉じない。
もっと高く飛んで見てみよう、 地球は青く見えるのだし。
地面すれすれを飛んで見てみよう。 同じモノは、同じモノだろうか?
僕らの街も青いのだろうか。CORBO. 古瀬
※画像をクリックすると拡大します。
古瀬様、船津様、山口様、タンナー(製革所)の皆様。本日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました!
当時から、10年先でも作り続けられる製品をデザインしたい、と考えていました。10年後も携わる人達がいてくれて、世の中に必要とされる物を作っていたいっていう事と、その頃イタリアの、ある皮革にすごく刺激されていて。
イタリアでは永いサイクルで、こんな表現が出来るのに、なぜ日本では出来ないのか?ということも考え続けていました。
実際に革を作ってみても、全く思い通りにはいかない(笑)。それでも、トライし続けているうちに、イタリアの皮革とは全然違いますが、思い描いている方向へと向かいそうな革が仕上がって来たんです。
そこにデザインを乗せてみようと思いました。