第2話 猪瀬商店 猪瀬さんインタビュー

猪瀬 昇(いのせ のぼる)バッグ・カバン 猪瀬商店 代表
日本トップクラスの鞄職人であり、青木鞄にとってもなくてはならない存在の猪瀬さん。そんな猪瀬さんは今までどんな想いでカバンを作ってこられ、これからの日本のカバンにどんな想いを抱いているのでしょう。日本の職人として思う、日本製のカバンの魅力や、鞄業界全体をとりまく状況、また、青木鞄と長く付き合ってきた職人として思う、青木鞄の魅力。じっくりと腰を据え、お話を伺いました。

日本製のよさとは

― 我々は今、お店のコンセプトを見直していて、“日本”に焦点を当てていこうと思っています。日本製の魅力はもちろんですが、日本製でなくても日本の企業が企画して管理しているカバンには同じような魅力があるのではないか、そういったことに焦点を当てていこうと思っているんですね。そこでまず率直にお聞きしたいのですが、猪瀬さんは“日本製のカバンの良さ”はどこにあるとお考えでしょうか?

やっぱり、仕事が丁寧ですよね。それと、商品に対する考え方かな。最終的に我々は、最後に手に取るお客さんの気持ちになってものを作れって言われますね。自分が持ったときに、例えば同じカバンでも、持って自分が豊かな気持ちになれるようなものを作ってる。工夫とか創意っていうのを、日本の職人さんは考えるんですよ。どうしたらよく見えるか、どうしたら使い勝手がいいか。そういうところをしっかり考えて作ってるんです。何かを感じないとその商品を手に取らないじゃないですか。だからお客さんに手に取ってもらえるような商品をまず発信しないといけないんじゃないかな。その中に自分の想いみたいなものを少しずつでも入れられたら、それはいい商品になるんじゃないかなと思いますけどね。

― そういう視点でのものづくりが、工場のライン生産では生まれにくいと。

工場のライン生産についてはよく分かりませんが、私の所では一人の職人さんが製品を仕上げるのが普通なので、職人さんが創意工夫をして作り上げています。

― カバンの設計図といいますか、最初は図面に描かれていて、それを立体に起こすわけですよね? 図面の段階ではそういったものは現れてこないのでしょうか。

作る過程で、経験値やセンスによって、やりながらですね。商品に対してどれくらいのクオリティを持たせるかは。

―そこで生まれた想いが商品に反映されるんですね。

そうですね。だから出来上がったものに対して、何か発信できる商品になっているかどうか。そういうちょっとしたことを積み上げて総合したものが完成品になるわけです。

― 長い間カバンを作られて、お客さんとの見えないコミュニケーションを通して、こだわる部分が時代によって変わってきてるなって実感されることはありますか?

多少ありますね。やっぱりお客さんの層によっても違うし、商品によっても違うんですけど、「こういう求め方をするのか」って思うときはありますよ。

―やっぱり、デザイナーさんによって求めるものは変わりますか?

そうだと思います。デザイナーさん一人一人の個性を汲み取って製品化することが大事だと思っています。

―メーカーさんにとってはコストを下げるというのが、職人さんにとっては技術低下を招くことに繋がってしまうんですか?

一概には言えませんけど、コストのために簡略化すると、やはり製品の出来栄えが違ってくるのではないでしょうか。

後継者のはなし

― カバン作りだけに限った話ではありませんが、職人さんはよく後継者不足と言われています。その実状についてお伺いしたいのですが。

カバンの職人さんは「一人前になるまで10年ぐらいかかる」と言われています。なかなか辛抱が難しいです。それと経済的な面もあると思います。職人さんの息子さんが仕事を継いでる人はほとんどいないです。

青木鞄ならではの難しさ

―青木鞄さんならではの難しさというのはあるんでしょうか?

そうですね、長い間お付き合いをさせていただいていますので、青木鞄さんの要求や注意点はだいたい分かっているつもりです。青木鞄さんは革に対しての長い歴史がありますから、とにかく“お客さん”の身になって製品化されているかを一番大事にしています。

― 今作られているもので長くやっているものというと、やはり『枯淡』ですか?

『枯淡』ですね。十数年作っています。青木鞄さんの中でもロングセラー商品ではないでしょうか。時々、電車の中などで目にすることがありますが、嬉しく思いますね。

最後に

―本日はお時間をいただき、ありがとうございました。とても勉強になりました。最後に、何か一言ありましたらお願いします。

お客さんが鞄を使って、「この鞄、いいカバンだね」と言ってもらえる鞄を作っていきたいです!!

工房を出ると、猪瀬さんは「この看板の字体、いいでしょ?」と笑顔でおっしゃいました。

一見ポップなこの字体は、猪瀬さんが選び、猪瀬さんが少し手を加えて出来上がったものなんだそうです。一瞬意外と感じたものの、これまでにお話を伺ってきた猪瀬さんの人柄を思えば、ストンと腑に落ちるのも事実。最初に抱いていたイメージはどこへやら、すっかり、親戚のおじさんのような親しみを覚えていました。

猪瀬さんに見送られながら、次は飯塚貴志さんにお話を伺うべく、青木鞄の本社へと向かいます。

1 2 3 4 5 6 7

青木鞄独占インタビュー特集

青木鞄シリーズラインナップ

PAGE TOP