第6話 T−Styleスタッフによるインタビュー後記

スタッフAより

今回のインタビューを経て、飯塚さんの「壊れちゃいけない」という考え。
モノを作って販売する人間として、当たり前の話だとは思うのですが、とても大事なことだと思います。
愛用していた物が壊れてしまった。使えなくなってしまった。
誰にでも経験のあることだと思いますが、とっても悲しいことですよね。
その商品に愛着があればあるほど、その想いは強いものになると思います。
どうにか直せないかとか尽力したり、同じ物を探したりしてしまいます。
そこに金額は関係ない。自分の経験と重なり共感することができました。

正直な話、個人的には形ある物はいずれ壊れてしまうとは思います。
ましてや安い物に関しては、仕方ないとすら思ってしまいます。
でも買う人や使う人は、壊れると思って購入していない。もちろん壊れて欲しいとも思わない。

作る側もデザインだけでなく、より壊れない物、安心して使える物を作る。
そのための仕様変更や工夫をどんどん組み入れていく、
裁断の革目や傷からはじまり、持ち手作りに縫い、仕上げにいたるまで、
少しずつの気遣いや工夫がひとつひとつ商品に反映され、
安心して使える商品を生み出していく。
それがメーカーや職人さんの想いとなり、商品に現れてくるのかもしれません。

高価な商品はもちろんですが、安価な商品でも同じように、
安心して使える商品を提供していきたいと強く思いました。

「壊れちゃいけない」

この言葉の重さ感じたのは、何年もモノ作りを続けてきた
飯塚さんの言葉だったからかもしれません。

スタッフIより

これまで、職人と聞いてイメージする人物像は「技術を持った頑固親父」。確かな技術を持っているもののあまり応用がきかず、図面通りに忠実に作っているものだと思っていました(なんて生意気な・・・)。が、今回猪瀬さんとお話をさせていただいて、その価値観が一変しました。

図面には表れてこないような些細な部分でも、エンドユーザにとって必要だと思えば、自分の持っている技術を製品に惜しみなく注いでいく。そもそも「ユーザーにとって何が必要か」なんて、設計の段階では考えられても実際に手を動かし始めたら、なかなか考えられるものではないと思う。図面は機械でいうところの設計図なわけだから、その通りに作ろうと考えるのが普通です。でも猪瀬さんは「自分の技術でもっと良くできないか」と、より良い解を常に探されている。

「手に取ってくれるヒト」の事を考えながら、血を通わせてつくられたモノにこそ生まれる「温かみ」。

私自身、これまでカバンに限らず工芸品など手作りの品から、既製品にはない「温かみ」をしばしば感じてきました。その「温かみ」の正体とは、こうしたモノづくりに向き合う姿勢から生まれてるものなのではないか。本物の職人さんの言葉から、その答えをもらえたような気がしました。

もう一つが後継者問題。

猪瀬さんご自身も、サラリーマンであればそろそろ定年といったご年齢。そんな猪瀬さんが仕事を下ろす下職さんも、皆さん70近くにも関わらず未だバリバリの現役でいらっしゃる現状。これは素人ながらにも、かなり深刻なところまで来ているんだという危機感を感じました。

最近、展示会でも比較的若い人が数年ほど鞄作りを修行され、自身のブランドの立ち上げをきっかけに独立されているケースを良く見かけます。鞄業界に新しい風を吹き込むという面では、これも良い動きだな〜と短絡的に思っていたのですが、その裏側には鞄職人を志望する若者が本当に減ってしまっている現状がありました。今後、猪瀬さんのような職人さんは姿を消し、鞄メーカーから世界に誇れる高品質な日本製のカバンが消える日が来るかもしれない。そんな危機感すら感じました。

ただ、国内の生産拠点を復活させるというのはある種、今日本が積極的に取り組んでいる「グローバル化」とは逆行する動きです。事実、青木鞄においても新しいモデルについては、既に品質を維持できる形での海外生産への取り組みを始められていると聞く。だとすると、日本国内に生産拠点を持つ意味は、メリットは一体どこにあるのだろうか。自分なりに日本製の未来を考えた時、お二方の話に共通する部分がありました。

それは「日本製の価値を高めたい」という想いです。

猪瀬さんは「日本の技術はもちろんだけど、そういう心遣いの部分も大事にしていきたいよね。」
飯塚さんは「最終的には日本製のグレードをぐっと上げていかなきゃいけないんだろうなぁって思ってます。」
それぞれこのように仰っていました。

今のように沢山の製品は作れないかもしれないけれど、モノづくりに情熱を、思いやりを反映させる事ができる日本人にしか作れない製品がある。単価がどれだけ上がったとしても、「温かみ」のある製品はなくなって欲しくない。それには、鞄協会の活動はもちろんの事、カバンを販売する小売、カバンを購入する消費者、それぞれの立場の人間が、日本製のモノに対して正しい知識を持ち、日本製の価値を皆で高めていくしかありません。

簡単な事ではありませんが、我々もT-Styleを通じてユーザーに日本製の価値をしっかりと提供していけるように出来る努力していきたいと思いました。

猪瀬さん、飯塚さん、この度は本当にありがとうございました。

スタッフTより

●日本製神話への懐疑

―今インバウンドの影響もあって「メイドインジャパン」って騒がれてますけど、メイドインジャパンって言ってもピンからキリまであるわけですよ。でも“日本製”っていう大きなくくりで全て信用されているその怖さというか。本来こうじゃないだろって思う部分も自分の中にはあって。

―メイドインジャパンって謳ってる世の中が嫌なんですよ。自信を持って「うち日本製なんです、これどうですか、日本製なんです」って言ってるのが、僕は嫌ですね。でも逆に、これで評価してもらえるんだって思ってる自分もいます。これでいいの? って。つねにその葛藤です。

飯塚さんのお話の中で、この部分が最も共感できました。
「日本製=高品質」なのはおおむね確かだと思いますが、そうでないものもありますし、中国製でも高品質なものもあります。おそらく皆様も一度はそんな経験をしたことがあるかもしれませんが、これは管理をしている人の問題です。管理者とは、「この品質じゃダメ」と判断する人。場合によっては「あの職人の仕事は雑だから仕事を頼むな」と指示することもあるかもしれません。品質を落とさないための、いわば監督です。この監督がしっかりしているかどうかが重要なんですが、「日本製」のタグにこの要素は関係してきません。

原産国の表記にとらわれることなく自分の目で良し悪しを判断できればそれがベストでしょう。例え「中国製」と書いてあっても自分がいいと思ったなら買えばいいし、「日本製」と書いてあっても気に入らないなら買わなければいい。

しかし、売り手として、ここで一つ葛藤が生まれます。「いいものが欲しいなら見る目を養わなければならない」というのは、消費者側が意識を高めるための言葉であって、売り手側が責任転嫁するための言葉ではありません。しかし、見る目を養おうとしない人が悪質な売り手のターゲットにされてしまうのも事実ですから、そういう意識を推奨したい想いもあります。

そんな中で我々にできることは何なのか。

今回の取材を通して、飯塚さんも猪瀬さんもカバン作りに対してとても真摯であり、己のこだわりではなく、使い手と時代を意識しながら作られていることを強く感じました。また、二人の間にはとても良い信頼関係が築かれており、「この二人が作っているなら自信を持ってオススメできる」と思ったのです。

我々のような小売店にできること・やるべきことは、カタログ上のスペックではなく、作っている“人”を知り、それを発信することなのかもしれません。

●職人神話への反省

「日本製」に対するそれと同じく、「職人」という言葉にも神話的な何かがあるような気がしています。
古びた工房で黙々と働き、取材には無愛想に対応し、「金のためにやっているんじゃない」とサラっと言ってのける。猪瀬さんにお会いする前、そんなイメージを抱いていました。
猪瀬さんの工房は、築年数10年にも満たないであろうきれいな工房で、正直「え?ここが?」と思いました。雑談の中でなんとなくそんな話をしたら、「僕たちだってきれいな所で仕事したいよ」と笑いながらおっしゃっていました。
また、インタビューの端々でも、職人さんの工賃を気にかけておられました。原材料の値上がりで商品が値上がりすることはあるけど、職人の工賃が上がることはない。「10年仕事やって給料上がらなかったら嫌でしょ?」という言葉がその理不尽を端的に表していました。

当たり前ですが、職人さんだって一人の人間です。カバン作りはあくまで仕事。仕事に対する価値観は人それぞれでしょうが、食えないと判断したら手を引くのは当然だと私は思います。

私がさきほど挙げた職人さんに対するイメージは、お会いした職人さんにそういう人が多かったからではなく、「こうあって欲しい」という勝手なイメージです。そもそもそんなにたくさんの職人さんにお会いしたことはありません。

職人だったら年季の入った工房で作業をしていて欲しい。

職人だったら機械に頼らず手作業で作って欲しい。

職人だったらお金にこだわらず仕事をして欲しい。

「職人」に対してそんな願望を抱いていないでしょうか? 「〜して欲しい」ならまだしも、「〜するべきだ」まで思う人もいるかもしれません。

猪瀬さんはハッキリと明言しませんでしたが、後継者不足・人手不足の一番の理由は工賃が安いからです。この問題を解決しなければ日本の製造業は長くは続かないでしょう。日本製ブームがやって来ても日本の職人の懐が潤うことはない。なんとも虚しい現状です。

これをどうやって打破していくのか。すぐには思いつきませんが、「想い」だけでどうにかなることではないことは分かりました。

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