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レ・コステ:未来に向かうイタリアの伝統
イタリア・ワイン界の将来を双肩に担っているといっても過言ではない、本格的な大型新人の登場です。様々な地質に応じたえり抜きの品種が植わる畑、尋常ならざるセラー、気合にみちた造り手と、まるで可能性の塊のようなワイナリーを、ここにご紹介いたします。
2007年9月号のラシーヌ『イタリア便り』のなかで塚原が、L.C.という頭文字で予告した生産者が、いよいよくっきりと姿を現しはじめました。生産者(会社)名は、《レ・コステ》で、正式にはレ・コステ・ディ・ジャン・マルコ・アントヌーツィ。所はイタリア中部で、オルヴィエートから車で1時間足らず、ボルセーナ湖の近傍にある内陸地のグラードリ。イタリア人のジャン・マルコと、フランス人のクレマンティーヌというカップルが、あらたに開いた3ha強の土地で、妥協を排しつつ非凡な才能と惜しみない努力をかたむけながら、実験精神にあふれたビオディナミ流を追い求めています。 おいしく楽しいワインが目に浮かぶ――ジャン・マルコとクレマンティーヌの、明るい未来がすでに約束されています。
ローマっ子のジャン・マルコは法律を学び、その頃はまだ手が届く価格であったエドアルド・ヴァレンティーニを、毎日のように楽しんでいたそうです。優しいまなざしの中に、鋭さを秘めたジャン・マルコは、コルビエールでワインを造っていたクレマンティーヌとともに、父上の出身地にもどりました。グラードリの村でワイン造りをする決心をしたのは、景勝地として名高いボルセーナ湖に臨む父方の故郷には、素晴らしいテロワールがあり、牛・ロバ・馬・羊を育てながらブドウ栽培ができる環境があるからでした。そうです、彼は自前のプレパラートを用いてビオディナミを実践し、セラーの奥に接する理想的な冷涼な洞窟の中で、自然派の極致ともいうべきワインを造ろうとしているのです。ワイン造りは、ジャン・ダール、パカレ、リナルディ、ディディエ・バラル、ジェラール・シュレールで学び、サンジョヴェーゼの苗は、ジョヴァンナ・モルガンティとジャンフランコ・ソルデラから、アレアティコはマッサ・ヴェッキアから入手。畑の1/3はヴィーニュ・フランセーズと聞いただけで、興味をもたずにおられるでしょうか。
2002年に初めて彼に出会って以来、私は「あなたがワインを造ったら、一番に知らせてね」と、言い続けてきました。ブルーノ・シュレールから「彼はまだ植えたばかりだから、当分ワインは出てこないよ」とも聞いていました。が、2006年に近隣のブドウを分けてもらって、ロッソ、ビアンコと甘口ワインを一樽ずつ作ったと聞き、まず塚原が昨年6月に飛んでいきました。奥行き30mもある洞窟には、リナルディから譲り受けたスラヴォニアン・オークのボッテが二つと、パカレから譲り受けた600リットルの樽、大小さまざまな実験的なキュヴェが控え、ワインはいずれも不思議なほど還元臭や酸化香の片鱗すら感じさせない、優しく美しい味わいです。
さて、このほど(2007年秋)、ほんのわずかだけ彼のファースト・ヴィンテッジが入荷いたしました。開墾した畑にブドウを植えたばかりゆえ、気の遠くなるような話ですが、これから少しずつ、美しくておいしいワインが届きはじめます。
とはいえ、フラン・ピエ中心の畑でブドウの生育に年月がかかるため、本格的な生産はこれからですので、楽しみにじっくりお待ちください。
合田泰子
2008年2月・記、2008年6月
ゼロから出発したプロジェクトの所産であるレ・コステは、大いなる情熱と、偉大な土地を再評価しようという思いに駆られて誕生しました。2004年2月に購入したグラードリにある3haの畑は、かつてはブドウやオリーブの木が植わっていた“ブドウ畑”(ジャルディーノ)でしたが、20年以上も放置されたままになっていました。自然を尊重し、自然とともに歩むには、長期にわたる多大な労力を要することは知っていましたが、私たちはこの計画を前に進めました。
ワイナリーは、トスカーナ州のほど近く、地中海沿岸からは40km、ローマからは北に150km、ラツィオ州ヴィテルボ県のグラードリにあります。比較的近年(といっても約100万年前)に出来た火山湖であるボルセーナ湖を見下ろす、標高450メートルほどの丘に位置しています。粒子が細かくて軽い土壌は、おおよそ礫岩と凝灰岩からなり、ミネラルと鉄分を豊富に含んでいます。
公的な認証こそ取得しておりませんが、いずれの畑においても“自然”に対して徹底的に敬意をはらう農法を実践しており、えてして望ましくない耕作から生じがちな不均衡をあらため、自然のバランスの恢復を目指さなくてはなりません。ですからレ・コステでは、ブドウやオリーブ、果樹、他の農産物などが入り混じった、多様な耕作に取り組んでいるのです。
土壌の生育を助けるためには、自然の豊かさが必要ですから、化学肥料も有機鉱物も使わず、その地の産物だけで造ったコンポストと、ビオディナミのプレパラート500番のみを用いています。雑草の管理と土の換気のため、ブドウの木とオリーブの木の周囲にトラクターで2度の掘り起こし作業と、2度ないし3度の手作業による耕作を施します。支柱を用いたアルベレッロ仕立てと整然とした樹列のために、交差型の畑作業が可能なのです。
ワイン畑においての処置は、天然の硫黄粉末と硫酸銅を基本にして、ビオディナミのプレパラートを組み合わせています。すなわち、植物性位相の角のシリカであるプレパラート501番やトクサとイラクサを煎じたもの(隠花植物の植物病発生を抑えやすい状況に導くため)を使用します。
2004年夏に行った地ごしらえ(デブルサイヤージュ;雑草木などの伐採)によって、私たちのワイナリーの名前にもなっている南西向きの丘(le coste)が、テラスを備えた昔の姿を取り戻し、地質の異なる各区画が、そこから産するワインに個性を与えるのです。
冬の休息の後、私たちは2005年3月のフルーツの日である「熱の日」に、この地に伝わる昔ながらの高密度式(1haあたり10000本、樹間・樹列間は80×120cm)で、1.5haの畑にブドウを植えました。それらのうち、1/3はヴィティス・ヴィニフェラ種の直植え(フラン・ド・ピエ;接木をしない方式)です。残りの2/3は、休眠中の新芽(薄切りにした『眼』オッキオの部分)を、2006年の夏に畑の中で台木に接木したものです。
ブドウの品種は私たちの地域で伝統的なものを用い、グラードリにわずかに残る古いブドウ畑のなかから「セレクション・マッサル」方式で厳選しました(サンジョヴェーゼについては、トスカーナで選抜しました)。赤ワイン用のブドウはグレゲット、アレアティコとサンジョヴェーゼであり、白ワイン用のブドウはプロカニコとモスカートと少量のマルヴァジーアおよびヴェルメンティーノです。
植えてから3年目となる2007年のこと、これらの畑からワイン造りを始めるのを待つ間、別に借りた畑からワイン造りを始めました。じつは私たちは、すでに2005年から、ボルセーナ湖の上部にある約2haの古いブドウ畑(樹齢は40~60年)を借りていたのです。2006年のワインは、この借りた畑で収穫されたブドウから造られたものです。これらの古いブドウ畑では、昔流にブドウの樹とともに果樹とオリーブの樹が混植されています(※2014年末時点での畑面積は、6.5ha)。
収穫は、9月末から10月初旬にかけて、手摘みで行われます。醸造過程ではいっさい機械が与することなく、醸造のための添加物はまったく用いません。発酵は土着酵母によって自然に始まり、二酸化硫黄も添加しません。マロラクティック発酵は、春季発動が自然に起こります。
醸造と熟成の生産プロセスは一定せず、ヴィンテッジ(ブドウの成熟度や清潔度)、ブドウの品種や樹齢などによって変ります。そのワインに求められるタイプ次第で、単一畑から造るのか、それとも他の畑産ブドウと混醸するかを選び、醸造はシンプルかつ自然な手法によって行います。除梗の割合、マセラシオンの期間、発酵用タンクの材質と種類(樹脂、ステンレス、木樽)、ルモンタージュ、ピジャージュ、マセラシオン・カルボニックの採用、熟成方式(タンクか、各種サイズの木樽か)…など、手法は様々で、熟成期間も異なります。
白ワインの場合も同じような選択枝があり、部分的なマセラシオンを行うことがあります(2006年は25日間)。土着酵母による発酵の進行も気ままで、マロラクティック発酵は通常、春に再開
します。
平均生産量: 20,000本/年
言うまでもなく、ワインの出来は毎年、ヴィンテッジの状況と条件によって変わりますが、私たちのワインの基本方針は、次のとおりです。
・アレアティコ:
モスカートの系統に属す黒ブドウ品種で、香り高い小さな赤い実を結びます。可能な年に限って、屋外で房を吊るして乾燥させる「アッパッシメント」という、伝統的な甘口仕立てにします(アパッシメントをしなければ、辛口ワインができます)。木製の開放桶で発酵させ、樽で2年間熟成させます。
・グレゲット:
二種類の赤ワインができます。Rosso Piu’は、最上の区画から収穫されたブドウから造られ、円錐台形をした木製の醸造桶で発酵させ、500L(ドゥミ・ミュイ)の木樽で18ヶ月から24ヶ月熟成させます。Rossoは、その他の区画で収穫されたブドウから造られ、樹脂製タンクとステンレスタンクで発酵、12ヶ月熟成です。
・プロカニコ:
少量のマルヴァジーアとヴェルメンティーノとともに、二種類のワインができます。Biancoは伝統的な手法で醸造され、樹脂性タンクに6(ないし12)ヶ月間寝かせます。
Bianco del Painoは、約3週間果皮とともに浸漬させ、500Lの木樽で18ヶ月から24ヶ月熟成させます。
・モスカート:
モスカート酒は、ブドウを屋外で乾燥させれば甘口にもなり、乾燥をへなけければ辛口にもなりえます。
【注】 添加物の表示に関して ~醸造家からインポーターへのメッセージ~
私たちのワインのエチケットには、左側に縦に小さく、「亜硫酸塩を含む」とあるのが読めるのですが、こう書くのは保存料、とりわけ無水硫化物(二酸化硫黄;SO2)の存在を明らかにするための義務なのです。それは、消費者を守るためにワインに関する法律に、重要な含有物である二酸化硫黄の添加を認める(白ワインに関しては上限210mg/l、赤ワインに関しては上限160mg/l)ことが付け加えられたからです。私たちのワインは、酵母によって発酵の最中に生み出された二酸化硫黄を自然に含んでいますが(添加はけっしてしていません)、その量は普通の分析システムでは正確に定量化できないほど微量なのです。そのため、私たちのワインにはみな、定量化できる最低限の量、つまりフリーで1mg/l、トータルで9mg/lという値が測定結果として出されるのですが、たとえ分析によってこれらの値が私たちのワインに含まれていると明示されたとしても、実際に含まれているのはおそらくもっと少ない量なのです。
現行の法律は、ワインをビン詰めする際に二酸化硫黄をトータルで10mg/lを下回る量しか添加しない生産者には、エチケットに亜硫酸塩を含むと書くことを義務付けてはいません。つまり、私たちも義務を負っていないはずなのですが、微量の添加に関してこんなにも不正確である分析システムのことを考慮すれば、記述漏れに対する監査を受けるという状況に陥り、最低限の亜硫酸塩を含んでいるということを証明しなければならなくなるという可能性があります。
友人のなかには、記述の内容を明らかにするために、また、わずかながら反論するというニュアンスを含み、二酸化硫黄を添加せずにワインを造るという可能性を予見しなかったこのばかげた法律に対して、「添加された亜硫酸塩は存在しない」や「自然に発生した亜硫酸塩を含んでいる」と記した人も数人いるのですが、法律からは予測ができなかったことであり、消費者の方々に混乱を招きかねないのではないでしょうか。
長くなってしまって申し訳ありませんが、この法律が関わる問題がいかに愚かでいかに表面的であるかということを消費者の方々に伝えることはとても重要なのです。読んでくださり、また労をとってくださり、ありがとうございます。もしよろしければ、この情報を伝えてください。私たちのメッセージが明白に、私たちのワインを楽しむ悦びにつながると、信じています。