Sold Out
Sold Out
「私も50歳、最後にいい仕事をしたいからね」
というニコラの言葉に歓喜していたのに、まさかのぬか喜びだったのか、と歎きながら時間が過ぎて行きました。
ところが2015年も押し詰まった12月2日になって突然、「12月7日、集荷に来てください。ラベルと印刷代用のお金が足りない」と、いきなり入金催促メールです。
ニコラもワインも無事というわけで、一同、安堵の胸をなでおろしました。
さて、2016年2月にはサン・ペルレ、シュナン・ブラン、ソーヴィニョン、が一挙に届きます。ニコラの復活を祝してロワール地方のお料理と、細身で繊細なシュナン・ブランを楽しむ会を開かなくては、と大きく期待がふくらみます。
合田泰子
合田 玲英のフィールド・ノートより、2016年3月寄稿
ラシーヌの研修員の方とともに、重要生産者を訪問した。なかでもニコラ・ルナールは異彩を放っていた。長いあいだ話に聞くだけだったけれど、初めて飲み味わった彼のワインはとても綺麗なつくりで、なんとなくイメージしていたワインと違っていた。感覚とセンスで造り上げる人かと思っていたら、話を聞くにつけ、とても論理的で細かいところまで考え抜いている。多くの生産者と話し、彼らのワインを飲みながら、独学でワイン造りを学んできたそうだ。ニコラはあまり他のワインを褒めることはないけれど、話しているとひたすらワイン造りが好きなことが伝わって来る。趣味は家具造りだそうで、ものを造ること自体が好きなのだ。
冬の剪定も春先の芽かきも3haの畑を全て独りで行っていて、多くの時間を畑の中で費やしている。セラーの中の仕事は洗うくらいしかないと言い、セラーでの作業が多いのはブドウが悪いからだ、とまで言ってのけた。ワイン用ピペットも試飲中に何度も取り替えたり、洗ったりしていた。現在醸造しているところは不動産サイトで見つけたそうで、ロワール河沿いには写真のようなセラーが簡単に見つかるそうだ。40年前までネゴシアンのセラーとして使われていただけあって、醸造環境としては理想的に思える。
畑でのボルドー液使用は、ビオの栽培でも認められている。けれどもニコラは、土壌の汚染を避けるために量を控え、極力草花の煎じ薬や春先にハーブの種をまくことで対応している。畑は2012年から借りているもので、ニコラが借りるまでに決して良い手入れをされてきた訳ではないから剪定の仕直しや環境を整えるにはかなり時間がかかる。しかし一度剪定を綺麗にし樹液の流れを正し、果樹を植えるなどして畑の周りの環境を整えればそれだけ手間をかけずに健全なブドウを手に入れられることにもつながる。写真の畑はまだまだ良い状態とは言えず、たくさんの改良の余地がある。
しかし、借りているこの畑のオーナーは、パリサージュを外すというニコラの新しい畑の仕立て方には、異論があるとか。すでにこの畑には3年も時間をかけてきているだけに、困ったことである。
パリサージュを外すことは、電磁波の影響を防ぐためであり、電磁波の強く発生する環境では病気やカビが蔓延しやすいとのこと。ニコラは畑のなかでも、その重要性について、力を入れて話してくれた。いずれにしても、自社畑は自力でまかなえる現在の3ha以上持つつもりはないよし。畑の問題は、だれにでも、いつもつきまとう問題なのだ。それにしても、完全に自分が思い通りに栽培できることが、とりわけニコラには必要なのだ。
セラー内でニコラは、金属製品を排除している。セラー内の電灯には、電圧の低いものを使う。ワインの移動には絶対に電動ポンプの動力をもちいず、手動のポンプによるか、または樽自体をフォークリフトで持ち上げて生じる位置のエネルギー(重力)を使って、スティラージュなどの作業を行う。バリックの他にワイン用のタンクとしては、グラスファイバーのものがあるだけだ。
ニコラにとっては、ワイン造りの過程において亜硫酸添加はありえない。だけれど、それを実行することは簡単なことではない、とつくづく思う。上記のことに加え、一番気を使うのは、外部の人を雇わなくてはいけない収穫の時。収穫人に求められるのは、健全なブドウを迅速に収穫すること。だけれど、選別基準を醸造家本人とどれだけ近づけられるかが問題だ。そこでニコラは収穫を始める前に、明らかに状態の悪いブドウと良いブドウを摘んできて味見させ、さらに果汁を絞って味見してもらうことから始める。品質の違いを体で感じてもらうことで、選別の精度を上げるためだ。さらに収穫は最大でも5人で行い、小さな収穫箱は使わない。小さな収穫箱は熟練の収穫人が作業するには良い。が、そうでない場合は、摘んだそばからトラクターに積まれてしまい、ブドウの品質確認ができない。だからニコラは、少し大きな収穫箱を用意する。収穫人は小さなバケツをそれぞれ持ち、バケツがいっぱいになったらそれをニコラに渡して、ニコラ自身がブドウの最終確認をしてから収穫箱に入れる。こういう手法を取っているため、ニコラ以外の収穫人は多くても4人が限界なのだ。ブルゴーニュように経験を積んだ収穫人が来てくれるような場所ならば、小さな収穫箱でも問題ないが、場所と状況が違うので、考えて対応しなくてはいけない。
聞けば聞くほど、ニコラにはワイン造りのどの工程においても独自の考えと方法がある。たくさん仕事があって大変だよとこぼすので、どうしてそこまでと聞くけば、「ワイン造りが好きだからなあ」とニカッと笑う表情が素敵だ。