漆器・片身替り四つ椀・奥田志郎|和食器の愉しみ・工芸店ようび|夏は家派!

片身替四つ椀(桃山時代模作)

生活の中に生きることの出来る道具

 この片身替の椀に出会いましたのは今から四十一年前の一九七一年だったと思います。東京の辻留さんのお店で盛り付けを教えていただいていた頃、お昼に御雑炊をいただいたのがこの四つ椀の内の大椀だったのでした。手ざわりといい口ざわりといい何ともいえないもので、「どなたの作品でしょうか」とお聞きしたのが始まりでした。

「奥田達朗いうてな、そらええもん作るヤツやで。ここまでくるともうあとはあらへん」と最上級の讃辞でした。「行くのやったら電話しとくよ」とおっしゃっては下さいましたが、まだようびには早いという風にきこえましたので、すぐに御紹介くださいとはいえずにおりましたところ、明漆会という、その頃全国から「よい漆を使って作品をつくりましょう」と呼びかけられ、さまざまな研究などをなさっていらっしゃる団体があると聞き、その集まりに参加しました。その席に奥田達朗氏が黒幕のようにいらっしゃったのです。それが奥田達朗氏との初めての出会いでした。何だか場違いの私をジロリと見られたのを思い出します。

 最初の片身替四つ椀は、当時熱海美術館(現MOA美術館)で根来展があり、それに出品されておりました桃山時代の確証のある四つ椀を、当時の館長様が写しを作ってくれと辻留主人辻嘉一氏に依頼され、そこから奥田達朗氏に依頼されたもので、四つ椀100組という大量のご注文だったそうで、本歌のメッセージを聞きながら懸命に作られたそうです。今も辻留さんでは実際に使われており、美術館関係者方々にも使っていただいているようです。早50年近く前のことになります。

 辻留さんでの出会い以来この四つ椀をどうしても作っていただきたくて、その後ようびのためにお願いして達朗さんに作っていただき、この度残りの素地をそのまま今度は弟の志郎さんが塗ってくださいました。黒塗りのままと片身替とを作っておりますが、改めて桃山時代の形の完璧な美しさに感心しきりです。時代の力と申しますが、工芸の世界では桃山時代を頂点としているように思えます。達朗さんはそれを賞で古い道具として愛玩するのではなく、いかに現代の生活の中に生かすことが出来るか、生きることの出来る道具であるかを考え具現した人でした。

 決してお安く出来るものではございませんが、生涯、次の時代にも使っていただける道具として、日々幸福を味わっていただけるものです。

*四つとも身としてお使いいただけます。
*四つ椀としてはもちろんです(大小の蓋付椀になります)

工芸店ようび 店主 真木
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