おもてなしの料理|星蒔絵椀・奥田志郎&山本哲

軽快なおもてなしの料理 七月(特別編)

 おもてなしの料理の中には家族へのもてなしも入っているのです。

 日常の中で、時にはいつもと違う発想でちょっとごちそうをと思うのは愛情であり、作る側にもいただく側にもたのしいことに違いありません。

 いつもとは少し変えてその季節らしい器を出してみる、同じものでも切り方を変えてみる。いろいろとこまかな工夫があれば料理は生き生きとするのです。

 この頃はおとりよせブームとかで主婦が何から何まで作らなくても美味しいものが入手可能です。少し手間をかけ、しっかり作ったものと市販のものの組み合わせで軽快におもてなしの方法を覚え、あまり負担にならないようにすれば時々やってみたくなるのではないでしょうか。

工芸店ようび 店主 真木

 七月に入りますと大阪では天神祭、京では祇園祭の準備が始まります。両方共に鱧祭りとも言われていて、この月には「梅雨の雨を飲んだ鱧が美味しい」などと言い、旬の鱧の味をよろこびます。よいものは品薄で高価なので、この時期に鱧を入手するのは大変です。今年は吉野寿司さんがとても美味しい鱧寿司をつくられていましたので、献立に組み込ませていただきました。

天神祭の定番料理
(1)たこのぶつ切り(わさび)
(2)白天と貝割れのお吸物
(3)蛸の子と三度豆、新小芋の煮合せ
(4)鱧皮のざくざく
(5)鱧寿司
(6)投げ頭巾形のお菓子

 

(1)夕顔紋平向付・・・・・・たこのぶつ切り(わさび)

 乾山の夕顔の茶碗が忘れられなくて何とかこれをお向付にと思っていました。源氏物語の「心あてにそれかとぞ見し夕ぐれにほのぼの見えし花の夕顔」とふくよかな字で書かれています。文字は写せませんが、この夕ぐれに白く浮き上がる夕顔の美しさが出せればと昨年から作ってみたものです。伏原博之さんの力作です。しっかり夏のお向になっています。ちなみに今の園芸種の夕顔は朝顔の変種で、源氏物語の頃の夕顔とは別種の花の形をしています。これは旧夕顔の形です。
 内側が「盛って下さい」という風な形にへこんでいますので、花を向こう側にしてゆったり盛れる少し大き目のお向付です。

(2)星蒔絵椀・・・・・・・・白天と貝割れのお吸物

 もう二十数年も前、平安時代に地蒔に用いられたという鑢粉蒔きというものをしてみたくて、東寺の弘法大師の袈裟箱を見に行きました。千年も経て今もきらきらとすばらしい輝きを放っている地蒔に魅せられました。蒔絵師にお願いして鑢粉を造っていただき蓋付椀の内側に蒔いていただきましたが、粉が荒く、形もさまざま、粒の大きさもさまざまで、漆の中で定着するのは至難のことでした。とうとう15回も塗ってやっと沈んだのでしたが、蒔絵師は指紋がなくなってしまうほど磨きに労力を要したため、音を上げてしまいました。
 今その椀は深いところから光を放ってますます美しくなっています。が、残念ながらもうその仕事をしていただくことはできないので、出来るだけ大きな丸粉を平目粉にしていただいて蒔いたものがこちらの椀です。何とか銀河系になってくれていることを祈りながら。
 白天は和田八さんの白天。きくらげが入っています。貝割れは小さく切らずに涼しげに盛って下さいませ。これがどうして天神祭の定番なのかいろいろの方に聞いてみましたがよく解りませんでした。ご存知の方があれば教えて下さいませ。

以下、下記に続く

工芸店ようび 店主 真木
  • 星蒔絵椀

    星蒔絵椀・奥田志郎&山本哲

    内側に銀河系を模した優しく静かな表情のお椀です。
    平目粉を蒔いて星を表しています。

    奥田志郎&山本哲

    110,000円

  • 夕顔紋平向付

    京焼・夕顔紋平向付・伏原博之

    立体感のある絵付けで大胆に描かれた夕顔です。夏の食卓の彩りにいかがでしょうか。

    伏原博之

    21,483円

  • 染付みじん網目小皿・2.7寸

    染付:染付みじん網目小皿・2.7寸・阪東晃司

    「みじん唐草」同様、描いている風景を思い浮かべると思わず息を止めてしまいそうに緻密な文様です。

    阪東晃司

    11,000円

  • 純銀取手付片口

    純銀取手付片口・高谷信雄

    純銀の酒器です。磨き上げられた耀きも美しく、年月を経た燻し銀の鈍い光も、また美しいですね。200ml入ります。

    高谷信雄

    129,800円

  • 丸グリーンぐい呑・大

    ガラス:丸グリーンぐい呑・大・植木栄造

    レトロなイメージのぐい呑みです。日本酒通には少し小さいかも知れませんが、くいっと冷酒はいかがですか。それともキュッとリキュールでしょうか。

    植木栄造

    3,300円

  • 赤杉箸・10膳1組

    赤杉:赤杉箸・10膳1組・松岡製箸所

    「利休箸」でも杉の赤い部分で作られた木肌がとても美しい「赤杉箸」です。

    松岡製箸所

    2,200円

  • 潤布盆・大

    漆器・輪島塗:黒利休正方膳・奥田志郎

    「にちにち膳」と共に、気軽に、きちっと食事の空間を作っていただくための素敵なお盆です。こちらも少し大きめで、和にも洋にも使いやすい寸法となっています。

    奥田志郎

    44,000円

  • 切手盆・小

    漆器・輪島塗:切手盆・小・奥田志郎

    「工芸店ようび」では、食卓の小物を整理するお盆として、お勧めしたいと思います!

    奥田志郎

    13,200円

九谷焼:染付芙蓉手花蝶文向付・正木春蔵

(3)染付芙蓉手花蝶文向付・・・蛸の子と三度豆、新小芋の煮合せ

 正木春蔵さんの染付芙蓉手蝶文向付は、大きさと深さが適当で何にでも使える一器多用途の代表格です。芙蓉手のかろやかさをきっちりと写されていて、やはり正木さんの感覚に脱帽です。
 蛸の子の煮たのは丸くて固いものと決め込んでいましたら皮を内側にひっくり返して煮るとよく味がしみて花のようになるそうで、今度からしてみたいと思っています。吉野寿司にいらっしゃる吉兆さんで御修行なさった若い料理人に教えていただきました。

交趾土器皿・伏原博之

(4)しずくグラス・・・・・・・・・・・鱧皮のざくざく
 鱧皮のざくざくは、かまぼこを取った後の骨のついた鱧皮を醤油につけて香ばしく焼いたものが売られているので、それを丁寧に骨をとり細かく刻み、胡瓜、生姜と合わせて酢の物にします。合せ酢を鱧皮に混ぜ冷やしておき、食べる前に塩水に浸しておいた胡瓜の水を切ってさっくりと混ぜます。
 ガラスの小向付に盛ってみました。横から透けてみえるのが涼しさを演出します。

(5)皆朱六五重・・・・・・・・・・・・・・・鱧寿司

 鱧寿司の入っているのは皆朱の六五重で、華やかでお祭り気分を盛り上げるものだと盛ってみて感じます。朱は魔除けの意味もあり、夏祭にはよろしきものと思います。 船場淡路町の吉野寿司の箱寿司です。押し方がよく、口に入れるとふわりとほどけてすし飯の美味しさが際立ちます。

白磁輪花5寸皿・阿部春弥

(6)白磁輪花5寸皿・・・・・・・・・投げ頭巾形のお菓子

 お菓子は高麗橋 菊寿堂さんのオリジナルで、天神祭の先頭を行く催太鼓を打つ勇壮な若者たちが被っている赤い頭巾の形をしています。赤い部分は葛で中は白あんです。とても美味しい、年に一度の天神祭ならではのお菓子です。こんな大阪の文化を大切にしなければと思うことしきりです。これにはやはり白いお皿が一番。少し大きい五寸皿を選びました。

工芸店ようび 店主 真木