
2020.5.13
長い歴史を持つ老舗国産スポーツブランド ヨネックス
メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?
厚底ランニングシューズの時代
昨今、厚底ランニングシューズの開発競争が激化しています。
ご存知の向きには今さらな話かもしれませんが、きっかけはナイキが2017年に発表した、ズームヴェイパーフライ4%(通称「ヴェイパーフライ」)という画期的な厚底ランニングシューズでした。
このシューズを着用した長距離走選手が世界新を含む好記録を次々に叩き出すと、速すぎる性能が世界の陸上界で議論を巻き起こし、一時期は“使用禁止論”まで出ます。
ランナーの足を前へ前へと押し出すその驚異的なパワーは、分厚いソールに秘められていました。
ただし厚底ランニングシューズの開発は、今に始まったことではありません。
1990年代に爆発的ブームを巻き起こしたナイキエアマックスシリーズなどのいわゆる“ハイテクスニーカー”も、極端に分厚いソールを備えた高機能シューズでした。
エアマックスシリーズの第一弾発売は1987年ですが、さらに歴史をさかのぼると、スポーツシューズメーカー各社は、1970年代後半のジョギングブームの時代から、ランニングシューズの高機能化を進めています。
その結果、分厚いソールを備えたシューズが続々と生み出され、市場に投入されてきたのです。
しかし厚底のハイテク系シューズは、ジョギングなどの軽いランやレジャー、そしてファッション用のもので、マラソンなどの本気の走りには向いていないとされていました。
本当に良いランニングシューズは、“薄くて軽いのに反発力がある”ものと信じられていて、各メーカーの開発陣もソールをなるべく薄くする方向で努力を重ねていました。
特に日本では、ランニングシューズは伝統的な足袋の延長という思想が根強く、ソールは薄ければ薄いほどいいという定説が残っていました。
ヴェイパーフライが世に出ると、箱根駅伝でいち早く採用した大学と、昔ながらの薄底シューズで迎え撃つ大学の対決が話題になりました。
そしてヴェイパーフライ勢の明らかな優位が確定すると、潮目が一気に変わります。あらゆるランナーが厚底シューズを望むようになり、各メーカーも開発に注力。
今日の“厚底シューズ全盛期”に突入したというわけです。

スタート地点は新潟の木工所
本題のヨネックスの話をしましょう。
ヨネックスの創業者は、1924年に新潟県で生まれ、一昨年の2019年に95歳で亡くなった米山稔という人物です。
米山は1946年、地元の新潟県三島郡塚山村(現・長岡市)で、漁業用の浮きを主とする木製品の製造販売をおこなう米山木工所を創業します。
同社は浮きだけではなく様々な木製品を製造していましたが、1957年、木枠のバドミントン用ラケットを主力製造品目として選択します。
当時の日本では、戦後に本格導入された新しいスポーツであるバドミントンが、国際大会での日本人選手の活躍を契機にブームとなっていました。
米山木工所は、日増しに大きくなるバドミントンラケットの需要に応えることにしたのです。
この選択と集中が功を奏し、米山木工所の事業は順調に伸びていきます。
1963年にはバドミントンラケットの生産・販売数で日本一となり、アメリカやヨーロッパにも輸出を開始。
1967年には社名をヨネヤマラケットに改称して名実ともにラケット専業メーカーとなるとともに、1969年にはアルミ製テニスラケットの製造も開始します。
以降、バドミントンおよびテニスラケットのトップメーカーとして、国内だけではなく世界にその名を轟かせてきました。
同社が総合スポーツメーカーへと舵を切ったのは、社名をヨネックスに変更し、ゴルフ市場に参入した1982年からです。
以降はスノーボード、ウォーキングシューズ、フットボールウェア、スポーツサイクルなど様々な商品をリリース。
研究開発に勤しみ、選手のニーズにしっかり応えるヨネックスの製品は、各ジャンルでプロ・アマ問わず高い評価を受けるようになります。
そんなヨネックスが、満を辞してランニングシューズ業界に参入したのは2009年のこと。
今日の厚底ブームに先駆け、自社で独自開発したクッション性能と反発性能の高いソールを搭載したランニングシューズの開発・販売を始めています。

ゆっくり走りたい健康志向ランナーへ
選ばれし者たちが競い合う競技会で新記録を続出させたナイキのヴェイパーフライは、言うなればトップアスリート向けのハイパフォーマンス製品です。
一方、今回ご紹介するヨネックスの厚底ランニングシューズは、フルマラソンを4時間前後で走ることを最終目標とするような、健康志向のアマチュアランナーに向けた製品。
かかとからしっかり着地して走る一般ランナー向けですから、おのずとその目的は、とにかく早く走るというよりも、ひざへの負担をなるべく減らし、怪我が起こりにくくするということになります。
そうしたヨネックスの姿勢は、“セーフラン”という商品名からもうかがい知ることができるでしょう。
同シリーズはソール内部に、ヨネックス独自開発の素材“パワークッションプラス”を搭載しています。
パワークッションプラスは非常に軽量ながら、一般的な衝撃吸収材であるEVAに対して衝撃吸収性で28%、反発性で62%も上回る高性能素材。
その実力は、12mの高さから落とした生卵が割れずに6m以上跳ね返るほどなのだそうです。
またミッドソールに内蔵された、足の土踏まずに沿うカーブ状のカーボン素材は、着用するランナーそれぞれのレベルに合わせた反発としなりを生み出してくれます。
こうした高機能ソールに軽量素材のアッパーを合わせて構成されるセーフランシリーズは、ランナーのストライドを伸ばしつつ、ひざへの衝撃を大幅に緩和し、着地時の足ブレを抑えた走りを実現してくれます。
セーフランシリーズには、2020年に発売された「200」と、2019年に発売された先行商品「100」があります。
両者の主な違いは、共通で内蔵されている“3Dパワーカーボン”と名付けられたカーボンプレートの形状。
「200」のそれの方が高性能になっており、筋力が充分でないランナーの、よりゆっくりペースのランニングにおいても、安定した走行をサポートしてくれるようになっています。

国産ブランドのスニーカーは注目株
ヨネックス・セーフランシリーズは、同社の技術を結集して作り出されたランニングシューズですから、その“走り”性能に注目してきましたが、タウンユースの視点に立って見るとどうでしょう。
カジュアルファッション界では2010年代半ば以降、分厚いソールを備えたダッドスニーカーのブームが巻き起こり、一大潮流となりました。
一時期に比べると若干落ち着いてきた感はあるものの、いまだこのトレンドは継続中なので、厚底シューズはランニングをしない一般ユーザーにもおすすめできるファッションアイテムと言えます。
一般的に、ダッドスニーカーはアッパーもゴテゴテしたハイテク系のデザインが多いものです。そのため、履いてみたいと思っても二の足を踏んでしまう人も多いのではないでしょうか。
その点、ヨネックスのセーフランシリーズは、シンプルでソリッド、スポーティな印象のアッパーを備えているので、取り入れやすいのではないかと思います。
もう一つ、セーフランシリーズの“推しポイント”は、ヨネックスという長い歴史を持つ国産ブランドのシューズであるという点です。
昨今のスニーカー界では、オニツカタイガーやアシックス、ミズノ、ムーンスター、世界長といった老舗の国産シューズブランドに熱い視線が注がれています。
ナイキ、アディダス、プーマといった海外ブランドももちろんいいのですが、そうした海外ブランドに負けず劣らず、いや、海外ブランドを遥かに凌駕するような確固たる物づくりの思想と、職人気質のこだわりが封じ込められた日本製スニーカーは、今や国内のみならず世界中の人々から求められています。
ヨネックスはスニーカーの世界では新規参入者なので、まだ注目度がさほど高くありませんが、むしろ今がチャンスなのではないかと思います。
1946年創業の老舗ブランドで、品質もデザイン性も非常に高いのですから、今後の注目度の高まりは間違いありません。
今のうちにワードローブに加えることをおすすめします。
落ち着いたデザインのセーフランシリーズは、様々な服にコーディネートしやすいでしょう。
私はこの存在感のあるシルエットを生かし、やや細身のセットアップやジャケパンスタイルなど、大人っぽいカジュアルスタイルにコーディネートしてみたいと思っています。
