
2022.6.7
伝統のデザインを取り入れるペンドルトンの歴史と魅力
メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?
アウトドアとペンドルトン
空前のアウトドアブームが続いています。
日本では過去にも何度か大きなアウトドアブームがありましたが、今回のひときわ大規模なブームのきっかけは、コロナ禍だと目されています。
イベントごとの中止や海外旅行の自粛という、否応なく強いられる“我慢”への反動で、家族や気の置けない友人たちと行く、“密”にならないオープンエアでの安全な遊びが求められているというのです。
週末ともなると、日本全国のキャンプ場にかつてなかったほど大勢の人々が押し寄せ、色とりどりのテントを並べています。
一説によると、やはり大きなアウトドアブームが起こっていた1990年代後半ごろと比べても、現在のキャンプ人口は倍以上になっているのだそうです。
かつてのアウトドアブームと現在のそれとを比べてみると、道具の選択の幅が広がったせいか、よりおしゃれに楽しむ人が目立つようになっています。
スペックばかり追求した本格的な野外道具ではなく、見た目にこだわった素敵なアイテムを選び、気持ちよくアウトドア空間を楽しもうという人が増えているのでしょう。
今回ご紹介するアメリカの老舗ブランド、ペンドルトンのアイテムもそんな層からの支持を受け、需要が急速に伸びているようです。
カラフルな幾何学模様が特徴のペンドルトンブランケットは、アウトドア専用品ではないので室内で使ってもいいのですが、やはりキャンプやバーベキューなどの外遊びのお供にするのがふさわしく、山・川・湖といった風景をバックにするとひときわ輝いて見えます。
ペンドルトンというブランドの存在は知っている人は多いと思いますが、では改めてどんなブランド?と聞かれると、首を傾げてしまうかもしれません。
今回はそんな人のために、ペンドルトンの歴史と魅力をひも解いてみたいと思います。

オレゴン州に建てた羊毛工場
ペンドルトンのスタート地点は、なんと今から159年も前の1863年。
日本では坂本龍馬や新撰組が活躍していた幕末の頃です。そう考えるとこのブランドの歴史の長さが実感できるのではないでしょうか。
創立者はイギリス出身の織職人、トーマス・ケイという人物です。
イギリスからアメリカ東海岸へ渡ってきたケイはまず東海岸の織物工場で働き、腕に磨きをかけると、新天地を求めて旅をはじめます。
独立して織物の商売をスタートさせるために、羊の飼育と羊毛の生産に適した土地を探す必要があったのです。
帆船とロバを使った旅は4ヶ月にわたり、たどり着いたのはアメリカ西海岸に成立したばかりの新しい州・オレゴンでした。
開発がはじまったばかりのオレゴンには、ケイを満足させるに十分な環境が残されていたようです。
オレゴン州ブラウンズビルに居を定めたケイは、手はじめに州で二番目に大きな毛織物工場の運営支援をはじめ、まもなくその会社の最高責任者となります。
そこで、長女ファニーに自分の織物に関するノウハウを伝授していったそうです。
1876年、ファニーは小売業者のC.P.ビショップと結婚。これによって製造業一家であるケイ家と商人一家であるビショップ家が融合し、“アメリカ最古のアパレル製造業”と言われる、ペンドルトン・ウーレン・ミルズ社が発足します。
そして1889年には、オレゴン州セイラムという土地に、満を辞して自分の毛織工場をスタートさせたのだそうです。

ふう。
一気にここまで見てきましたが、色々と驚くべきことがありましたね。
まず、織物の商売をはじめるために4ヶ月も旅をするとか、織物業をはじめるために羊の生育に適した土地を探すとか。
まあ、なんという時代なんだろうと思いますが、ペンドルトンというブランドの歴史の長さが窺える、味わい深いエピソードです。
ブランド物語はもう少し続きます。
1909年、創業者のトーマスから数えて3代目、ファニーの息子たちが現在のペンドルトンに直接つながるような事業を開始するのです。
ビショップ家の三兄弟
ファニーの息子であるビショップ家三兄弟、クラレンス、ロイ、チョウンシーが、会社のテコ入れを開始したのは1909年のこと。
休止状態であったオレゴン州ペンドルトンの工場を再開し、現在のブランドを代表するアイテムである、色鮮やかなパターンを施したアメリカ先住民柄ブランケットの製造を開始します。
ブランド名ともなっているペンドルトンという街は、オレゴン州のほぼ真ん中に位置し、近くにアメリカ先住民の居留地がある土地です。
1900年当時でオレゴン州第4位の人口を誇っていたというペンドルトンですが、その数は4406人! 西部開拓時代直後のアメリカ西海岸が、いかに牧歌的な雰囲気だったのかが、この数字から想像できます。
しかしペンドルトンの街は、ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州にまたがるアメリカ北西部の広大な高原=コロンビア高原を結ぶ主要鉄道線の末端に位置していたので、羊毛製品を生産し、出荷するのに適した土地でした。
1893年、ペンドルトン・ウーレン・ミルズ社そんなペンドルトンの街に羊毛を精錬(出荷前に原毛を洗浄すること)するための工場を建てていました。
しかしその後の貨物運賃の値上がりによって不採算となり、休業状態になっていたのです。
1909年にこの施設を再稼働させることを思いついたビショップ三兄弟は、羊毛精錬工場から、より効率の良い毛織物工場へと作り替えます。
そこで生み出したアメリカ先住民ブランケットから、今日に続くペンドルトンの歴史がいよいよはじまったのです。

ところで、彼らの生み出したブランケットは、アメリカ先住民のものを模倣して“それ風”に作っただけのものではありません。
ナバホ族、ズニ族、ホピ族といった近郊のアメリカ先住民と交流を深め、彼らの好む色やデザインを徹底的に研究。
同社のデザイナーは彼らの伝統や神話、習慣まで真剣に学び、製品に反映する手間を惜しまなかったそうです。
先住民に認められたブランケット
当時の同社が協力を求めた“ジャガード織りの天才”と呼ばれた職人、ジョー・ローンズレイは、オレゴン北東部の先住民と生活をともにし、彼らの趣向の理解に努めたといいます。

その結果、ペンドルトン・ウーレン・ミルズ社は、先住民族の好みに見事に合致した羊毛製品を生み出します。
当時の最新技術を駆使してつくったそうしたブランケット製品は、アメリカ先住民の持つ伝統的手法では表現したくてもできなかった、細かい染色や織りを実現できていたうえ、耐久性も非常に高かったため、当のアメリカ先住民を大いに驚かせたそうです。
そして同社のブランケットは先住民たちの間で人気となり、日々の生活や儀式にも広く使われるようになりました。
あるナバホ族作家はその著書でペンドルトンのブランケットを次のように記しています。
「子が生まれたときにはペンドルトンのブラッケットを贈り、結婚式では女性の身体にペンドルトンのショールを、男性にはペンドルトンのローブをかけて祝う」。
アメリカ先住民から学んでつくった製品が本家以上の価値となり、先住民の生活にしっかり根付いていったのです。
ペンドルトンのブランケットは今日でも、アメリカ全土の先住民族の間で重要な役割を果たしているといいます。
ブランケットの製造で地歩を固めたペンドルトン・ウーレン・ミルズ社はその後、一般的なアパレル分野にも進出してさらに大きく飛躍。
さまざまな商品を展開する、一大アパレルに成長していきます。
1960年代にも大ブームに
1940〜50年代には、女性ものを中心に、アパレルブランドとして人気を博すようになったペンドルトン。
1960年代に入ると、若い男性を中心とした大ブームも巻き起こります。
その火付け役は、レジェンドロックバンドのザ・ビーチ・ボーイズです。
彼らが1963年に発表したサードアルバム『サーファー・ガール』のジャケットを見てみましょう。

ロングのサーフボードを持って海辺を歩く5人のメンバーの写真が使われていますが、彼らがお揃いで着ているチェック柄のウールシャツは、何を隠そうペンドルトンのものなのです。
そもそもザ・ビーチ・ボーイズは結成当初、“ザ・ペンドルトンズ”という名前で活動していました。
彼らがいかにペンドルトンファンだったのかが窺い知れる話ですが、ザ・ビーチ・ボーイズに限らず、当時の若者、特に流行がはじまった西海岸のサーファーたちの間では、ペンドルトンの人気が非常に高かったそうです。
近年はブランケットや洋服だけではなく、帽子やバッグなどの服飾小物から、食器、傘などの生活用品まで幅広いアイテムを展開しているペンドルトン。
そのいずれにも、伝統のデザインが取り入れられていてとても魅力的ですが、やはり最初に手に入れるなら、ブランドの歴史がそのまま詰まっているような大判のブランケットがいいでしょう。
アメリカ先住民由来のカラフルな幾何学模様は一見すると派手ですが、アウトドアシーンでは不思議と風景になじみます。
肉厚でしっとりとした生地の肌触りは心を和ませてくれるので、これにくるまれているだけで、「ああ、今日はいい一日だ」と思わせてくれる力を秘めています。
もちろんアウトドアシーンだけではなく、リビングにも溶け込むデザイン性なのでインドア派の人にもおすすめ。
それに、贈られて嫌な人はいないアイテムなので、ギフトにも最適です。
この機会にぜひ!