

2021.03.28
キング・オブ・スウェット。
チャンピオン・リバースウィーブの
底知れぬ魅力とは!?
<店長>
最近集めていたTシャツを断捨離。30枚ほどなくなってスッキリしました。
<佐藤さん>
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
さまざまな層に支持されるリバースウィーブ。音楽好きが選ぶ理由とは

今回は、スウェット界の“王者”である、チャンピオンのリバースウィーブについて、佐藤さんと語り合いたいなと思って。

いいですね、ぜひ語りましょう(笑)。リバースウィーブはカジュアルウェアの銘品ですからね。個人的にも大好きです。

そうだと思いました(笑)。よく着ていらっしゃいますもんね。

学生の頃から、ボロボロになるまで着倒しては新しいのを買ってというのを繰り返し、いま着ているのが何代目になるのかわかりませんが、一度も途切れずに着続けていると思いますよ。

なんでそんなにお好きなんですか?

僕が好きになったきっかけは、音楽からの影響なんです。

へえ! と言うと?

いや、やめときましょう。

え、なんで?

マニアックすぎるかな、と思って

マニアック上等です。でも早めに片付けましょう(笑)。

(笑)では手短かに。僕がリバースウィーブを好きになったのは、1980〜90年代にこの服を愛用していたストレートエッジや、ストレートエッジ第二世代であるユースクルーのキッズに影響を受けているんですよ。

ほ、ほう……。

ほら! そういう反応になるでしょ(笑)。



すみません(笑)。いいんです。続けてください。

ストレートエッジやユースクルーというのは、ワシントンD.C.やボストンを中心とする米東海岸で発展したUSハードコアパンクのサブジャンルです。タバコを吸わない、酒を飲まない、ドラッグを使わないといった禁欲的で清廉潔白なイデオロギーを、激しいハードコアサウンドに乗せて訴えるスタイルで、めちゃくちゃかっこいいんです。

へえ。

「へえ」って(笑)。USハードコアの人たちって全般的に、スポーツウェアなどの普段着っぽい服装を好むのが特徴なんですけど、ストレートエッジ第二世代のユースクルーでは特にその傾向が顕著で、チャンピオンのリバースウィーブが象徴的なアイテムになったんです。

そうなんですね!

彼らにシンパシーを抱いている僕は、ユースクルーの代表バンドであるゴリラ・ビスケッツのように、リバースウィーブをラフに着こなしたいんですよね。


なるほど! ありがとうございます。そんなに手短かでもありませんでしたが(笑)。リバースウィーブの知られざるカルチャー的な一面がわかりました。でもどうして彼らはリバースウィーブを好んだのですかね?

ストレートエッジもユースクルーも、学生を中心とする若い世代が担い手です。アメリカの学生にとって、チャンピオンのスウェットは本当に身近な日常アイテム。着飾ることなく、そういう普段着を選ぶことに、本質的なかっこよさを見出していたんじゃないですかね。

なるほど。チャンピオンのスウェットは、“若々しさの象徴”という感じがしますよね。
チャンピオンブランドのことはじめ

チャンピオンとアメリカのカレッジシーンが切っても切り離せない関係性であることは、ブランドの歴史を見るとよくわかりますよ。

チャンピオンの歴史は長いですよね。

なにしろ創業は、今から100年以上前の1919年ですからね。東欧出身のユダヤ系移民であるサイモン・フェインブルームという人物が、チャンピオンの前身となるニッカーボッカー・ニッティング・カンパニーという会社をニューヨーク州ロチェスターに設立したそうです。

最初からチャンピオンという社名じゃなかったんですね。それにしても“ニッカーボッカー”って……。あの、土木作業で使う腿の部分が幅広いズボンのことですよね? ということは、当初はワークブランドだったんですか?

いや、そういうわけでもないんです。19世紀前半にオランダからの移民がアメリカに持ち込んだ短ズボンがニッカボッカーズです。裾が邪魔にならないアクティブな形状だったことから、野球やゴルフ、乗馬、登山などで使われるスポーツウェアとしてアメリカ国内で普及したそうです。


ニッカボッカーズはスポーツウェアだったんですね。じゃあ、ニッカーボッカー・ニッティング・カンパニーも最初からスポーツウェアブランドだったということですね。

そうです。しかもニッカボッカーズって、アイビーの起源でもあったりするのはご存じでしたか?

いえいえ、初耳です。その話もしましょうか。

長くなりますよ。

できるだけ手短かに(笑)。
アメリカとイギリスの大学で進化していったカレッジスタイル

1920年代から30年代にかけて、イギリスの名門・オックスフォード大学で流行した、“オックスフォードバッグススタイル”というものがあります。

“超”がつくほどの世界的名門校で、歴史が長い大学ですね。

そう。だからオックスフォードは学生の服装にも規律を求めていて、当時の若者の間で流行っていたニッカボッカーズは禁止されていたそうです。でも、トレンドの服を着たいと望んだ学生たちは、密かにニッカボッカーズを穿き、それを覆い隠すように極端に幅広のズボンを重ね穿きました。 “オックスフォードバッグス”と呼ばれたそのズボンは、バギーパンツの原型として知られています。


そうなんですね。

さらに彼らは、大学のドレスコードに適合するボタンダウンシャツやスクールカラーのレジメンタルタイ、そして級友と揃いであつらえたブレザーを、オックスフォードバッグスにコーディネートするようになりました。カジュアルに着崩しつつも、規律と気品を保ったそういうスタイルを、1950年代にアメリカのアイビーリーガーは模倣したんです。

ああ、そうなんですね。すごい! 米英を行ったり来たりして、そういう学生スタイルが確立されたんだ。でもその話、チャンピオンと関係あります?

大ありなんです! チャンピオンの歴史に戻りますよ。

ええ、是非(笑)!
全米の大学に浸透していったチャンピオンのスウェット

チャンピオンの歴史は、ほぼそのままスウェットの歴史でもあるんです。創業者のサイモンは会社設立後、間もなく亡くなってしまいますが、息子のエイブ&ウィリアム・フェインブルーム兄弟が事業を受け継ぎます。そして彼らが開発した労働者向けのウール素材アンダーウェアが、米陸軍士官学校のトレーニングウェアとして採用されるのですが、これがスウェットの原点なんですね。

そうなんですか!

1924年には、ミシガン大学がチャンピオンのスウェットを採用。これが大評判となって、瞬く間に全米の大学にチャンピオンのスウェットが広まります。さらに1930年代に入るとチャンピオンは、大学が生徒に貸与するウェアを管理する目的のため、スウェットに大学名やナンバーをプリントする加工技術を開発します。これが後のカレッジプリントへと発展したのです。


ちょっと待ってください。じゃあチャンピオンの歴史って、スウェットの歴史そのものじゃないですか?

そうですよ。そう言いませんでしたっけ?

ああ、そうでした。言ってましたね(笑)。では、リバースウィーブはいつ頃開発されたんですか?

1934年です。リバースウィーブは、普通は織り目が縦になるように使うスウェット素材を、あえて横にすることで、縮みを抑えることに成功します。1938年にはこの製法の特許を取得。さらに、身頃の両脇に縦リブを使用することで、より縮みにくく着こんでも型崩れしない完璧なスウェットを完成させ、1952年に二度目の特許を取得するんです。これが現在のものとほぼ変わらぬリバースウィーブですね。
画期的な製法による究極のスウェット、リバースウィーブ

リバースウィーブは、1950年代に登場した東海岸のアイビーリーガーの間でも大人気になるんですよね?

アイビーカジュアルの典型的なスタイルは、通う大学の校章やロゴがあしらわれたアイテムを使うことです。学内の売店で簡単に手に入れられるチャンピオンのリバースウィーブは、アイビーリーガーの最重要ワードローブとなっていたんです。

リバースウィーブという名前は、さっきおっしゃっていたその独特の縫製法からつけられているんですよね?

そう。チャンピオンがリバースウィーブを開発するまで、スウェットというのは洗濯するとどんどん縮んでしまうのが宿命でした。縮む原因はコットン生地。コットンは、洗うと縦方向に縮む性質があるんです。そこでチャンピオンは、縦編みの生地を思い切って「横向き」に配置した結果、縮みを大幅に軽減することに成功したわけです。編み=WEAVEの向きを逆=REVERSEにしたことから、 リバースウィーブと名付けられたのですね。

そんな歴史の長いリバースウィーブは、人呼んで“キング・オブ・スウェット”。特別感のある服ですよね。

本当にそう思います。いくら画期的な製法とはいえ、開発から何十年も経過しているわけですから、古臭くなって当たり前なんですけど、今でも間違いなく、一番かっこいいスウェット。これは僕個人の意見ではなく、多くの人の共通認識だと思いますよ。

リバースウィーブって、生地がかなり厚めなので暖かいですよね。

12オンスという厚い生地を使っているので、まだ肌寒い春先でも、これ一枚で十分なくらい暖かいんですよね。

この分厚さが、またなんとも無骨でかっこいい。

そのとおり。それに生地がぼってりと厚いから、リバースウィーブのパーカを着ると、首の後ろにフード部分がモコモコと立って見えるんです。それがかっこいい! 細かいようですが、そういうディテールも人気の秘密なんじゃないかと思います。


すっごいわかりますよ! こんなに語り合っていると、リバースウィーブにまた愛着が湧いてきませんか?

もう一着欲しくなってきました。僕はオーソドックスなグレーの無地パーカが一番好きなんですけど、ほかの色や、クルーネックも欲しくなっています。

ありますよ、うちに。お買い上げですか?

むむむ。そうですね。お願いします。

ありがとうございます(笑)! しかし今回はいつも以上にガッツリ蘊蓄話でしたね。

はい。おかげさまでスッキリ。清々しい気分です。

それはよかった(笑)。