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ラコステ看板

2021.1.6

LACOSTE

メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

ラコステによる一大イノベーション

今日(こんにち)、世界には数多くのストリートウェアブランドが存在します。
そうしたストリートウェアにおける、ある"スタンダード"を定めたのが、1933年にフランスで創業したラコステだということを、あなたは知っていましたか?

ラコステのトレードマークといえばご存知のとおり、右を向いて大きな口を開ける緑色のワニ。
知らない人はいないのではないかと思えるほど浸透した、世界でも屈指の有名なロゴです。
そして実は、服の表面の目立つ位置にブランドロゴをあしらうという、現在のストリートウェアでごく当たり前となっている手法は、ラコステが世界で最初に編み出し、実施したアイデアだったのです。
それはファッション界における一大イノベーションでした。

ラコステのワニマーク誕生の経緯は、そのままブランド創業の歴史に重なるので、詳しく見ていきましょう。

ラコステのトレードマーク=ワニは、フランス人テニスプレーヤーでブランドの創始者である、ジャン・ルネ・ラコステ氏のニックネームに由来しています。
ルネは、"グランドスラム"と呼ばれるテニス4大大会のうち、フレンチオープンで3回、ウィンブルドンで2回、USオープンで2回の優勝経験を持つ、輝かしきスターテニスプレーヤー。
ほぼ同時期に活躍した同僚のアンリ・コシェ、ジャン・ボロトラ、ジャック・ブルニョンと合わせてフランスの「四銃士」と称され、国民から絶大な人気を得ていた人物です。

そんなルネのことを最初に「ワニ」と呼んだのは、アメリカのメディアでした。
1925年のボストン大会に出場したルネは、練習の合間にボストンの街を散歩していて、洋品店のショーウィンドウに飾られたワニ革のスーツケースに惹きつけられます。
そしてチームのキャプテン、ピエール・ジルーに冗談まじりで、「僕がもし優勝したら、このスーツケースを贈ってよ」と頼んだことが、ニックネーム命名のきっかけとなりました。

新しいテニスシャツの開発に着手

結局、その大会でルネは途中敗退し、優勝という目標には手が届きませんでした。
しかし、難しいボールを返されても簡単にはあきらめず、執拗に食らいついていくルネの粘り強いプレースタイルは、ひときわ大きな注目を浴びます。
そして、取材でスーツケースにまつわるエピソードを聞きつけたジャーナリストのジョージ・カレンスは、「フランスの若きルネ・ラコステ選手はワニ革のスーツケースを手に入れられなかった。だが、彼のプレーはまるでワニのようだった」と報じました。
こうしてルネ・ラコステは、アメリカでは"アリゲーター"、本国フランスでは"クロコダイル"と呼ばれるようになったのです。

それから2年後の1927年。男子テニスの国別対抗戦であるデビスカップで、ルネ率いるフランスチームは、宿敵のアメリカを決勝でくだし、同大会で初の優勝を遂げます。
勝利を記念し、アーティストである友人のロベール・ジョルジュがルネに贈ったのは、白いブレザー。
ルネのニックネームにちなみ、ブレザーの胸元には46色の糸を使ったワニマークの刺繍が施されていました。
フランス人らしいエスプリの利いたこのプレゼントは、ルネを相当に喜ばせたようです。

将来を嘱望されたルネでしたが、1929年、結核を患ってしまったために25歳の若さで現役引退を余儀なくされます。
そして病気療養のかたわら事業展開の構想を練り、1933年にテニスウェアブランドのラコステを創業します。

ルネが現役選手として活躍していた当時、一般的なテニスウェアは糊をきかせた白い長袖ワイシャツで、スポーツに適したものとは言えませんでした。
しかし体調面に不安のあったルネは1927年、当時のポロ選手が使用していた通気性のいい衿付き半袖ニットを、テニスコート上で初めて着用します。
その快適な使用感が記憶に残っていたルネは引退後、当時フランス最大のニット衣料品製造会社を経営していたアンドレ・ジリエと手を組み、ポロ用シャツをベースとしたオリジナルの機能的なテニスウェア開発に着手します。
ルネはフランス中にその名を轟かせるスター選手だったので、このような強力なタッグが実現したのでしょう。

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すべてのポロシャツの原点

果たしてルネは、画期的なテニスウェアの開発に成功します。
軽くて汗を吸収しやすく、通気性のいいコットン"ジャージー・プチ・ピケ"で作った、リブ衿の半袖シャツ。
現在もラコステの看板商品であるこの品番「L1212」は、今や世界中の老若男女が着ている、すべてのポロシャツの原点でもあります。

L1212の胸元には、デビスカップ優勝時にロベール・ジョルジュから贈られた、白いブレザーのワニマークを簡略化したロゴが刺繍されていました。
それまでの服飾業界では考えられなかった、自社のシンボルマークを前面に堂々と打ち出したこのデザインは当時の人々に衝撃を与え、同時に大きな反響を呼びます。
ルネの作ったポロシャツは、第一に自分の種目であるテニスで使われることを念頭に置いていましたが、非常に汎用性のあるデザインと機能性を持っていたため、すぐにゴルフやセーリングなどさまざまなスポーツで使われるようになり、やがてスポーツを離れ、普段着としても着られるようになりました。

またポロシャツ以外の商品も、目立つ位置にあしらわれたワニのロゴマークが、「あのラコステの商品だ」という信用性の目印になりました。

ラコステが発明したこの手法は、マーケティングの世界では"エクステリア・ブランディング"と呼ばれ、後続のあらゆるスポーツウェア、ストリートウェアブランドに採用されていきます。
たとえば1949に創業したアディダスが、1966年に創業したザ・ノースフェイスが、1972年にブランド設立したナイキが、何の迷いもなく製品に大きくロゴマークをあしらったのは、先駆者であるラコステの手法を踏襲した結果だったのです。

ルネは洋服だけではなく、さまざまなものを生み出すクリエイターでもありました。
一人でテニスの練習ができるスピード調節付き投球機や振動を止める衝撃吸収剤入りのラケット、スチール製ラケットなどを最初に作ったのもルネです。
湧き上がる彼のアイデアのひとつの結晶が、アパレルの世界を大きく変える、ロゴマーク入りテニスシャツだったというわけです。

ワニマークが証明するクオリティ

"元祖にして完成形"と絶賛される完璧なポロシャツからスタートしたルネのアパレル事業は、その後大きく成長。
スポーツ競技用ウェアにとどまらず、さまざまなアイテムを市場に投入し、世界中の人々のカジュアルなライフスタイルを支える一大ブランドとなっていきます。

21世紀の現在も世界的な人気を誇るラコステの商品ラインナップは膨大。
シンプルな日常着から、ランウェイを飾るモード色の強いコレクションまで幅広く取り揃えられていて、その特色を一言で語ることはできません。
しかし、いずれのアイテムにも通底しているのは、ポップさとユーモア、そして上品さを併せ持つ、フランスのブランドらしい洒脱な雰囲気です。

このフランスらしいセンスの良さを、"エスプリ"という言葉で表現する人もいます。
辞書を引けば、エスプリとは「精神、精髄、機敏にはたらく才知、機知」などと一応の説明がされていますが、日本人の我々からすると、わかったようなわからないような、曖昧模糊とした言葉のようにも感じます。
日本人の"粋"や"侘び寂び"を説明するのが難しいのと同様、言葉で正確に表すことのできないフランス人特有の国民気質、それがエスプリなのです。

Z-CRAFTで販売されているラコステのアイテム、スウェット類やロングTシャツ、キャップ、マスクなどはいずれも、非常にシンプルでベーシックなものばかりです。
ともすれば他のブランドのものと見分けがつきにくいアイテムかもしれませんが、ラコステにしかできないスペシャルな意匠が施されています。
それが、100年近く前のテニス界で大活躍したスタープレーヤー、ルネ・ラコステのニックネームに由来する、例のワニマーク刺繍です。

ほんの数センチの小さなワニマークが商品のクオリティの高さを保証し、同時に、ただシンプルなだけではない絶妙なおしゃれ感を醸し出してくれるというわけです。
ラコステが発明したロゴマークというものは、本当に威力絶大ですね。

bild:Justin Taylor, flickr.com, CC BY 2.0

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