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L.L.Bean看板

2020.2.15

L.L.Bean

佐藤 誠二朗さんメンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

画期的なハンティングブーツ

今年でなんと創業109年となる老舗中の老舗。アメリカが誇るアウトドアのトップブランドがL.L.Beanです。
その長い長〜い歴史をまとめるのは簡単な仕事ではありませんが、はっきりと言えるのは、L.L.Beanが二つの画期的な商品によって、アウトドアの世界を切り開いたブランドだということです。

創業者は、1872年に自然豊かなメイン州グレーンウッドの農家に生まれたレオン・レオンウッド・ビーン。
そう「L.L.Bean」とは創業者の名前をそのままとったブランド名です。
レオンの父は彼に、幼少の頃から冒険とサバイバルの技術を教えました。
10代になるとレオンはハンティングに親しみ、16歳でガイドを務め、ときには自分でしとめた鹿を不猟だったハンターに12ドルで売りつけるほどになっていたそうです。

やがて大人になった彼はいろいろな仕事に就きましたが、1910年に衣料品事業をはじめます。そしてある日、狩猟に出て足を痛めたことをきっかけに、ハンティングブーツの研究を開始します。
当時のハンターが履いていたのは、木こり用のごつい総革製の靴。それは固くて履きにくく、1日歩けば耐え切れないほど足が痛くなる代物でした。
そのうえ水に弱く、ぬかるんだ道ではスリップしやすかったのだそうです。

彼はいくつもの試作品づくりとテストを重ねた末、ゴムのボトムに軽量革のアッパーを縫いつけたコンビネーション式の新型ブーツを考案します。
メイン・ハンティング・ブーツと名付けたこの自信作を販売する目的で、翌1912年に創業したブランドがL.L.Beanだったというわけです。

メイン・ハンティング・ブーツはとても軽量で、足にピッタリとフィットする構造でした。
しっかりと地面を捉えてスリップしにくいアウターソールを備え、耐水性能も完璧。
クッション付きインナーソールは靴ずれを起こしにくく、一日中履いて山野を歩き回っても快適な優れものでした。
メイン・ハンティング・ブーツはその後、若干の改良が加えられながらもほぼ原型を保ち、現在は「ビーンブーツ」としてメイン州ブランズウィックにある本社工場で製造、世界中で販売されています。

llbeanコラム1bild:Ryan Scott, flickr.com, CC BY-ND 2.0

当初の仕様を守るトートバッグ

メイン・ハンティング・ブーツを目玉商品として、狩猟と釣り用品のビジネスを本格的に開始したレオン率いるL.L.Beanは、ジョン・ウェインやロバート・スタック、リー・マーヴィンなど当時のハリウッドスターをはじめとする錚々たるメンツを顧客リストに連ねる人気ブランドになっていきました。

そして1944年、L.L.Beanはもう一つの画期的な商品を世に送り出します。
それは、キャンバス生地で仕立てられた、大きくシンプルな手提げバッグでした。

1944年に発売した当初の商品名はビーンズ・アイス・キャリアといいます。
冷蔵庫用の氷を運ぶ目的をもって開発された、トートバッグの前身です。
こちらもビーンブーツと同様、使い勝手を考慮して若干の改良が加えられつつもほぼ原型を維持しながら製造が続けられ、1965年からは現在と同じ「ビーン・ボート・アンド・トート・バッグ」と称されるようになりました。
77年前の開発当初から一貫して24オンスの肉厚なキャンバス生地を使用し、今もメイン州の本社工場でひとつひとつ手作りされている“メイドインUSA”を代表するようなトートバッグです。

ビーン・ボート・アンド・トート・バッグを初めて手にした人は、あまりにも固くゴワゴワとした手触りに違和感を覚え、「なんて扱いにくいバッグなんだ」と思うことさえあるようです。
しかし使い込むと生地はほどよく柔軟になっていき、どんどん風合いが出てきます。
そしていつの間にか“マイ・オンリーワン”の、二度と手離せないバッグとなるのです。この感じ、“魔性のバッグ”とでも表現すればいいのでしょうか。

ビーン・ボート・アンド・トート・バッグの頑丈なつくりには定評があります。
もともと氷を運ぶための質実剛健な男の道具だったことを思えば、それは当然。
いまやタウンユースの超・定番となったビーン・ボート・アンド・トート・バッグですから、まさか今でもこれで氷の塊を運ぼうと思う人はいないでしょうが、それでも頑なに24オンスのキャンバス生地を使い続けるのが、L.L.Beanの“粋”なところと言ってもいいのではないでしょうか。

llbeanコラム2bild:Nicole Beauchamp, flickr.com, CC BY 2.0

トートを愛したアイビーリーガー

トートバッグは、現代社会ではあまりにも一般的なアイテムです。
「一枚の生地を折り返し、両脇を縫製することによって袋状にし、両サイド上端にループ状の持ち手を縫い付けた手提げバッグ」という定義を踏襲しながら様々なバリエーションが生み出され、アウトドアからビジネスシーンまで幅広く活用されています。
そうした全てのトートバッグの祖先が、1944年にL.L.Beanが考案したビーンズ・アイス・キャリアであるいうことは、ちょっとした驚きではないでしょうか。
そして、その“元祖トートバッグ”直系の子孫たちは、現在もL.L.Beanの主力商品となっているのです。

L.L.Beanが初めてビーンズ・アイス・キャリアを開発したとき、生地はジーンズの2倍の重さのある24オンスのキャンバスを採用しました
なるべく氷が解けにくいように外気を遮断し、解けた水も外にこぼれないようにするには、それほどの分厚い生地が必要だったのです。

ビーンズ・アイス・キャリアはその機能性が受け、家庭の冷蔵庫のための氷運搬用から離れ、野外で氷を使うキャンパーや、船でのレジャーを楽しむ海の男たちの愛用品となっていきました。
アイスキャリアではなく「トートバッグ」と呼び名を変えたのは、このバッグが当初の予想以上に汎用的に使われるようになったからです。
トートとはアメリカのスラングで、“運ぶ”とか“背負う”という意味。
「氷を運んでください」という商品名を捨て、「何でも運んでください」という意味の名前に改められたというわけです。

それでもまだトートバッグは、あくまでも“アウトドア道具”に過ぎませんでした。
最初にファッションアイテムとして目をつけたのは、アメリカのアイビーリーガーだったと言われています。
彼らは毎日、大量の教科書やノートを持ち歩く必要があったため、気負わずに何でも自由に入れることのできる、シンプルで頑丈なトートバッグに着目しました。
彼らがトートバッグを通学カバンとして使いはじめると、たちまち東海岸地区の若者たちの間に流行が広がり、日本にもアイビーブームの定番アイテムとして伝わってきました。

llbeanコラム3bild:Mike Mozart, flickr.com, CC BY 2.0

ヘビーデューティーブームとともに

1960年代のアイビーブームによるトートバッグの広まりとは別の流れで、日本にL.L.Beanというブランドの価値が伝わったのは1970年代のことです。
当時、ベトナム戦争から帰還したアメリカの若者がヒッピー文化に染まり、アウトドアウェアに身を包んで世界中を旅するようになりました。
そんな彼らのスタイルが世界に伝わり、1970年代後半には街中でアウトドアウェアを着ることがトレンドになります。
この“ヘビーデューティー”ブームをきっかけに、アウトドアアイテムがデイリーユースのファッションとして市民権を得たのです。

ヘビーデューティー=heavy dutyは訳すと“過酷な任務”。
つまり本格的な目的に対応する、丈夫・実用本位な服という意味です。本来はワークウェアやミリタリーウェアにも用いられる言葉ですが、日本では当時、雑誌『メンズクラブ』の啓蒙によって、登山やスキー、あるいはハンティングや釣りなどのアウトドア活動用に開発されたアイテムを指す言葉として解釈されました。
当時のアメリカの若者の「本物志向」が日本に取り入れられて、ヘビーデューティー(実用性本位の)時代に突入したというわけです。
そしてこの時代、エディバウワーやレッドウィングと並び、L.L.Beanが日本で初めて本格的にブレイクを果たしました。
その後、すっかり日本に定着。本国アメリカに次いで、L.L.Beanの熱狂的なファンが多いのは、この日本なのかもしれません。

1944年に登場した当時のオリジナルの良さをそのまま残したL.L.Beanのトートバッグは、そのベーシックな作りゆえに、大きさやカラーなど様々なバリエーションが生み出されています。
自分の嗜好にピッタリの一つを見つけ出す楽しさも、このバッグの人気が廃れない要因なのかもしれません。
この機会にぜひ、ビーン・ボート・アンド・トート・バッグをゲットし、マイ・オンリーワンの相棒バッグに育て上げてみてはいかがでしょうか。

llbeanコラム4

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