生地の森は、「生地の森らしい」とか「他にはない風合いが好き」また「他の店と比べると値段が高い」とさまざまなご意見やご感想をいただきます。
そこで、皆さまにより親しみと関心を持っていただくために、生地の森のオリジナル生地誕生における秘話や、生地作りにまつわる裏側を全5回に通してご紹介していきます。
第1回 老舗染職人によって生み出された生地
- 個性的な生地の森オリジナル生地
- 生地の森の生地が生まれたきっかけ
- 世の中にはない生地をどのように生み出したのか?
個性的な生地の森オリジナル生地
生地の森のオリジナル生地は、均一性のある鮮やかな色味や艶やかな生地ではありません。
全体的にくすんだ色味で、どことなく色のムラやシワがあって、むしろ汚く見える。
そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、麻(リネン・ラミー)や綿(コットン)の持つ、風合い(くったり・やわらか・肌触りの優しさ)や、
使う毎に変化していく様を感じていただけるのではないでしょうか?
では、なぜ生地の森がこのような個性的な生地を作るようになったのか。
掘り下げていきたいと思います。
生地の森の生地が生まれたきっかけ
きっかけは、あるアパレルデザイナーの声でした。
遡ること、30年程前、
生地の森のオーナーが、当時アパレルメーカーへ
生地営業をしていた頃に、デザイナーに言われた言葉です。
「世の中、綺麗な生地ばかりで面白味がないんだよね。」
「もっと他にはない、変化を楽しめるような生地は作れない?」
生地は、一般的に発色がよく、色が均一で、色落ちがしにくい、
いわゆる堅牢度(生地としての品質)の高いものが良いとされています。
生地製造過程において、一般的な工法で行なえば、
素材や織りに違いが無い限り、比較的堅牢度の高い、
一定の品質を保った生地に仕上がり、デザイナーさんのいう、
ありきたりな生地になるかもしれません。
世の中にはない生地を
どのように生み出したのか?
では、どのようすれば、世の中にない変化のある生地を
作ることができるのでしょうか?
デザイナーさんの希望は、キレイというより、味のある古着感が楽しめるような生地。
そこで、目を付けたのが「ダイレクト染色」
通常、生地を織りつけた状態(生機:キバタといいます)から、
糊を落としたり、シルケット加工などを行うところ、
これらを省き、生機(キバタ)からダイレクトに染色することを
分かりやすくダイレクト染色と名付けました。
一般的に生地は、染色やプリントなど加工を行う上で、
一定の品質を保つために、シルケット加工という
強アルカリの薬剤に通す工程があります。
この工程では、薬剤で生地表面の凸凹を溶かして均します。
平らになった生地は、シルクのような光沢が生まれます。
また、余分な壁が無くなったことで、全体に染料が浸透しやすくなり、
糸内部までしっかり染色できることで、色落ちもしにくくなり、
比較的高い堅牢度を保つことができます。
良いこと尽くしのようですが、
実はこの工程によって、麻(リネンやラミー)、綿(コットン)の
本来持っている風合い、しなやかさが失われてしまいます。
また、表面の凸凹を溶かしてしまうため、生地が痩せてしまいますし、
表面が平らなことで、何となくノッペラとした印象にもなりがちです。
生地は、織る際に糸に糊を付けて織ることが多く、
織り上がった生機(キバタ)は、生地表面に糊や汚れなどで
コーティングされた状態のため、染料を弾きやすくなります。
色味の出方が一定ではありませんし、
色ムラもできやすく、糸の芯まで染まりにくいので色も落ちやすい。
到底、生地として使ってくれるところはないのです。
そのため、生機(キバタ)にダイレクトに染色をすることは、
生地製造者から見れば、こんなことは頼まれてもやらない。
いわば非常識ともいえることなのです。
誰もがやりたがらない非常識ともいえる加工を行うのですから、
当然のことながら、簡単に安定した染色はできるはずもありません。
多くの手間と時間をかけて、数々の失敗を繰り返しました。
試行錯誤を繰り返し、生地の森のオーナーの熱い思いと、
染色職人の柔軟さとハングリー精神によって生み出された生地は、
今もなお、素材や織りと様々な工夫を重ねながら、開発を続けております。