

2022.5.8
まだまだ続くアウトドアブーム
いま注目したい5ブランドの歴史と魅力
メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?
空前のアウトドアブームはとどまるところを知らず、今シーズンに入ってからもますます拡大中のようです。
ファッションのジャンルでも、さまざまなブランドが耳目を集めています。
今回は数あるアウトドアブランドの中から、いま特に注目したい5ブランドを厳選ピックアップ。
各ブランドの歴史や魅力をひも解いてみたいと思います。
本格志向のブランド・マーモット
①Marmot
アメリカ・コロラド州に拠点を置くマーモットの創業は1974年のことです。
創業者は、エリック・レイノルズとデイブ・ハントリー。カリフォルニア大学サンタクルーズ校の同級生であった二人が、共通の友人であるトム・ボイスを誘って設立したブランドです。
そのブランド名は、世界各地の山岳地帯に生息するリス科動物に由来しています。
大学で氷河の研究をしていたエリックとデイブは、アラスカで実地調査をおこない、当地の厳しい気候を体感します。
そんな極限状態から生還するためのギアを自分たちの手でつくろう、というのがマーモットの基本コンセプトとなったそうです。
創業したばかりの秋、トムは偶然知り合った映画制作者からの「1週間で108着のダウンジャケットを製作して納品すべし」という、かなり無茶苦茶な注文を受けてしまいます。
そして寝食を忘れてつくり続け、約束どおり撮影現場に納品。
クリント・イーストウッド主演の山岳アクション映画『アイガー・サンクション』の撮影スタッフが揃いで着たそのダウンジャケットは「ゴールデン・マントル」と名付けられ、のちに“ダウンの金字塔”として知られるようになりました。
またマーモット社は1976年、社内で過酷な防寒防水テストをおこなった末に、ある画期的な素材を購入し、ウェアや寝袋への採用を開始します。
その素材とは『ゴアテックス』。
現在ではアウトドア好きだけではなく一般にもよく知られるようになった高機能素材『ゴアテックス』を見出し、最初に使ったブランドこそがマーモットだったのです。
現在のマーモットは本格アウトドアからタウンユースまで、さまざまなシチュエーションに適したウェアやグッズを展開しています。
世代を超えてファンが絶えないのは、いずれのアイテムにもブランドが創業時から培った“本格志向”と“選球眼”が見え隠れするからなのかもしれませんね。

Marmot(マーモット)
画期的商品で名を馳せた
メレルとキャビン・ゼロ
②MERRELL
1998年に発売された「ジャングルモック」がよく知られるメレルですが、ブランドの歴史はもっと古く、創業は1981年までさかのぼります。
フランスのスキー用品ブランド、ロシニョールの幹部だったクラーク・マティスとジョン・シュバイツァーが、アメリカで新たにハイキングブーツのブランドを立ち上げることを計画し、腕利きのウエスタンブーツ職人ランディ・メレルを招いて立ち上げたブランドがメレルです。
その後、さまざまな本格ハイキングブーツやスキーブーツを世に送り出したメレルでしたが、1990年代後半からは簡易的な軽量アウトドアシューズに重点を置くようになります。
そして1998年に発売した「ジャングルモック」がスマッシュヒットとなるわけです。
ロングセラーとなった「ジャングルモック」は、その後の20年余りでなんと、2000万足近い売り上げを記録したというから驚きです。

「ジャングルモック」は、“アフタースポーツシューズ”という新しいカテゴリーを打ち出した商品としても、歴史にその名を刻んでいます。
ハイパフォーマンス性を日常使いに結びつけ、アウトドアシューズをタウンユースするという、今日では日常的に見られる光景を創ったのが、メレルだったのですね。
MERRELL(メレル)
③CABIN ZERO
キャビン・ゼロというイギリス発バッグブランドの立ち上げコンセプトは、非常にシンプル明快なものです。
それはすなわち“飛行機の機内持ち込み可能なサイズで設計する旅行バッグ”というもの。
創業者のイギリス人デザイナー、ニール・ヴァーデンは1993年、たびたび訪れていたインドへの旅の際、自分の巨大なバックパックを持て余し、うんざりしていました。
そして、必要最小限のサイズで使い勝手のいいバッグを、自分の手でつくってしまおうと思い立ちます。
その後1年間の試行錯誤の末に生み出した2ウェイバッグは、世界の主だった航空会社が定める、機内持ち込みOKのサイズをぎりぎりクリアするように計算してつくられていました。
しかも、旅先で悪目立ちしないように見た目は至ってシンプルなデザインにもかかわらず、旅のための細かな配慮が行き届いていて機能性抜群だったため、ヨーロッパを中心に人気を集めていきます。
現在では旅行用バッグだけではなく、旅先でも普段使いでもOKなボディバッグなど、さまざまなバッグがラインナップされていて、キャビン・ゼロに対する注目度はますます高まっているようです。
CABIN ZERO(キャビンゼロ)
質実剛健の老舗・フィルソン
④FILSON
ゴールドラッシュに沸く1897年のアメリカ。
フィルソンは金の採掘メンの需要に応えるため、クリントン.C.フィルソンという人物がシアトルで設立したメーカーです。
シアトルは当時、ゴールドラッシュの拠点になっていて、一攫千金を夢見るゴールドハンターたちが殺到し、アラスカやアメリカ北西部の金鉱山へ向かう前に準備を整えるための街になっていました。
クリントンは、そんな彼らこそが本当の“金脈”であると悟ったのでしょう。

初期のフィルソン社が扱ったのは、ウールの衣類や毛布、ニット商品、ブーツ、靴、モカシン、寝袋といった商品でした。
いずれも、金鉱があるアメリカ北部の極寒の気候に、そして金の採掘というハードワークに耐えうるように、分厚い生地を使ってあくまで頑丈につくられていたのだそうです。
やがてゴールドラッシュは終わりますが、フィルソン社はターゲットをハンターや釣り人、工場労働者、探検家、それに、船乗りや鉱夫へと変えながら、丈夫で快適な衣料を開発し続けます。
とにかく“どんな過酷な環境下でも生き延びるため”という信念のもとにつくられていたフィルソンの質実剛健な衣料に対し、多くの顧客たちは全幅の信頼を寄せていたそうです。
創業者のクリントンはこの商売を始める前、木こりを生業にしていたそうです。その経験を活かして1914年に発売した「フィルソン・クルーザー」という林業従事者用シャツはベストセラー商品となり、フィルソンというブランドを全米に知らしめる結果となりました。
その後も堅実に、プロアウトドアマンのためのさまざまなプロダクツを発表していったフィルソンですが、折からのヒッピームーブメントに呼応してアウトドアブランドが激増した1960年代には、一流老舗アウトドアブランドとしての評判が世界中に広まっていきます。
フィルソンは今でも、厳しい自然環境の中で働く森林警備隊、林業従事者、ハンター、そして冒険家など、真のクオリティを必要とする人々に愛され続ける一方、そのシンプルでタフなデザイン性が受けて、タウンユース用としても高い評価を受けています。
FILSON(フィルソン)
日本人がデザインするマウンテンスミス
④MOUNTAINSMITH
1979年、パトリック・スミスという人物がコロラド州で創業したマウンテンスミス。
アウトドアを心から愛していたパトリックは、創業時も現在もかわらず、年間で少なくとも100日はキャンプ暮らしをしているという、筋金入りのアウトドアマンです。
1980年代前半、マウンテンスミス社は「ランバーパック」という商品を開発します。
ランバーは“腰”を意味し、デイパックとウエストバッグを融合させたような形の画期的なバッグでした。
パトリックがランバーパックを思いついたきっかけは、雪山での遭難でした。
雪崩によって生き埋めになることは免れた彼でしたが、押し流される大量の雪の圧力で、背負っていたデイパックを引きはがされてしまったそうです。
雪山で生命をつなぐための大切なギアを入れてあったデイパックを失い、身ひとつで大自然に投げ出された彼の恐怖心はとても大きなものでした。
その経験が、背中ではなく胴体の中心である腰に、丈夫なベルトでしっかりと結えつけるランバーパック開発につながったのです。

そのランバーパックが大勢のアウトドアマンに認められたことから、マウンテンスミスは飛躍します。
バッグだけではなく、アクティブなアウトドアライフを充実させる斬新なグッズの開発に全力を尽くしてきたマウンテンスミスでしたが、現在世界的にもっとも注目されているのがウェア類のラインナップです。
実は、マウンテンスミスのアパレルラインのデザインを手がけているのは日本人。F/CE.のデザイナーである山根敏史氏です。
山根氏はみずからもアウトドアマンである一方、世界中にファンを持つインストゥルメンタル中心のポストロックバンド、toeのベーシストであるという一面も持っています。
どこかカルチャーを感じさせる都会的なマウンテンスミスのアウトドアウェアは、そんな山根氏一流のセンスによるものなのです。
いかがだったでしょうか?
いずれも負けず劣らずの魅力満載な5ブランド。
アウトドアだけではなく、タウンユースにも最適なアイテム揃いですので、物欲を抑えるのに苦労しそうですね。
私もです(笑)。