2021.10.14
伝説的クライマーが生み出したブランド
GRAMICCI
メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?
グラミチは伝説的クライマー
かつては知る人ぞ知るクライミング専用ブランドだったのに、今は登山や釣り、キャンプ、フェスなどに用いられる一般アウトドアウェア、また“アウトドアミックス”感を味わえるタウンユース用ウェアとしても大人気。
そんなグラミチはある意味、昨今のアウトドアブームを象徴するブランドのひとつなのではないかと思います。
グラミチの創業者はマイク・グラハム。
1960~70年代のアメリカ・ヨセミテ国立公園で活躍し、“伝説的ロッククライマー”として名を馳せた彼が、1982年に盟友のドン・ラブとともにはじめたブランドです。
“グラミチ”とは、マイクのニックネームだったのだそうです。
グラミチを知るためにまず注目すべきアイテムは、ブランドを発足させたマイクが最初に開発したクライミング用ショートパンツです。
もっとも特徴的なディテールは、股部分にあしらわれたマチ。これは“ガゼットクロッチ”といって、ロッククライミングの際に足場を求めて大きく開脚したとしてもつっぱらず、ビリっと破けないようにするための仕様。
ガゼットクロッチは非常に優れた機能だったため、現在ではグラミチのみならず、様々なアウトドアブランドのパンツに採用されていますが、その発明者こそが、グラミチことマイク・グラハムだったのです。
マイクが現役のクライマーとして活躍していた当時、ロッククライミング専用のウェアは存在しておらず、彼も一般的な登山用ジャージとパーカという出で立ちで、垂直に切り立つ険しい岩壁に挑んでいました。
しかしマイクはクライミングテクニックを極めるうち、既存のウェアの様々な不満点に気づきます。
そして試行錯誤の末、独自の手法でつくりあげたのが、グラミチのクライミング用ショートパンツだったというわけです。
役に立つクライミング仕様
グラミチのショートパンツには、ガゼットクロッチ以外にもユニークなディテールがいくつも施されています。
ウェストサイズを調整するための“ウェビングベルト”は、フロント部が左右に分かれるバックルではなく、デイパックのストラップと同じ構造の、長さ調整アジャスターベルト。この構造だと、ベルトを締めたり緩めたりという動作は、手袋をつけたまま片手でおこなうことができます。
ウェビングベルトは、後ろ側の腰のあたりで少し露出しています。ロッククライマーはここに、カラビナでチョークバッグをぶら下げます。
フロント部が開かないのも、グラミチショートパンツの特徴です。ファスナーやボタン、ホックなどの金具がロッククライマーの命綱であるザイルに引っかかり、傷つけたりしないようにという配慮です。
フロントポケットの入り口は、通常のパンツとは違ってサイドのステッチに沿うような形で垂直に開いています。ロッククライミングでどんなにアクロバティックな姿勢になったとしても、ポケットの中のものがこぼれ落ちないようにするための仕様です。
バックポケットの開口部がボタンではなくベルクロなのも、クライミング時に片手で操作できるようにという理由によるものです。
さて。
グラミチのファーストプロダクツであるショートパンツの特徴を上げてみましたが、ここまで読んでみて「いやいや、待て待て」と思われた方も多いのではないでしょうか?
いくらクライミングのために有用であっても、自分はロッククライミングなどしない。おしゃれなアウトドアウェアのひとつとしてグラミチが気になっているだけなのに、そんな機能は必要ないよ、と。
ごもっともだと思います。
微に入り細に入り様々なアイデアを具現化した、機能性抜群なグラミチのロッククライミング用ショートパンツは、発売直後からクライマーに賞賛されます。その評判はロッククライマー以外にも広がり、様々なアウトドアマンに愛用される定番となりました。
そして新たな商品展開をする際、グラミチはブランドのアイデンティティであるロッククライミング仕様の良い部分は残しながら、一般には使い勝手が悪いと思われる部分は改良を施し、より広く使われるようなウェアをリリースしていったのです。
ニューナローパンツの魅力
私も愛用している「ニューナローパンツ」は、まさにグラミチが一般ユーザー向けに投下した素晴らしいアイテムです。
まずそのシルエット。
もともとのグラミチのクライミングパンツは、ショートもロングもかなりワイドなシルエットです。
体にフィットするスリムシルエットよりも、余裕のあるワイドシルエットの方が、アクロバティックな動きをするクライミングの際には有利だからです。
でも多少の野暮ったさは否めませんでした。
しかしデイリーユースを主眼とする「ニューナローパンツ」では、足先にいくほど細くなるテーパードシルエットを採用。
そのため非常にスマートで、コーディネートしやすいアイテムになっています。
では、シルエットを優先するために動きの良さは犠牲にしたのかといえば、さにあらず。
グラミチの真骨頂であるガゼットクロッチはしっかり施されているし、伸縮性の高いストレッチ生地を使っているので、スリムフィットなのに動きやすくて履き心地は抜群なのです。
その他にも、ガチなクライミングパンツとは違うディテールがあります。
例えばウェストサイズを調整するウェビングベルト。ベルトの素材はクライミングパンツと同じものですが、長さ調整機能のみのアジャスターではなく、左右に分かれるバックルに変更されています。
それに伴いフロントにはファスナーとボタンが施され、通常のパンツと同様に前開きできる構造となっています。
これなら脱ぎ履きしやすく、トイレに行った際にも慌てません。
逆にクライミングパンツと同様の構造を採用している箇所もあります。
フロントポケットの入り口はサイドのステッチに沿って垂直につけられ、バックポケットにはベルクロが施されています。
これらは、クライミングの際にポケットの中のものを落とさないように、また手袋をした手でもポケットにアクセスしやすいようにという意図なのですが、考えてみれば軽いアウトドアやタウンユースでも有効な機能です。
ポケットに入れたスマホや鍵、財布などを落としにくいですし、コンビニで電子決済をしたいと思った際、バックポケットに入れた財布やスマホなどを、ストレスなくさっと取り出すことができます。
このように、「ニューナローパンツ」を普段着として使っていると「ああ、なるほどね」と気付かされることが多いのです。
一度履いたら手放せない
私は「ニューナローパンツ」も、オリジナルのクライミングショーツも所有しているグラミチ愛用者です。
グラミチのパンツを使っていると、極限状態での使用を前提に考えられたディテールが街でも効果を発揮し、ユーティリティ性の高い道具のようなものであると実感することが多々あります。
ウェビングベルトの腰部分のちょっとした露出は、一般向け商品にも残されたディテールです。
クライマーはここにチョークバッグをぶら下げるとお伝えしましたが、僕はカラビナで車のリモコンキーをぶら下げます。
車をよく運転する方はご存知の通り、リモコンキーは肌身離さず持っていなければなりませんが、最近の“キーレスエントリー”の車だったら、持っているだけでいいもの。
ドアの開け閉めも、エンジンをかける際にも、いちいち取り出す必要はありません。
そういうものをポケットに入れておくのもわずらわしいので、私は家を出るとき、グラミチパンツの腰のウェビングベルトに引っ掛けます。
そうすれば家に帰るまでキーのことをまったく気にすることなく過ごすことができて、とても便利なのです。
私の持っている「ニューナローパンツ」は、ワンウォッシュのデニムです。
正直に言えば、最初に店頭で見つけたときは、「グラミチのデニム? ないなー」と思いました。
デニムは元来、ワークアイテム。アウトドアブランドであるグラミチと相性がいいわけはなかろうと思ったのです。
でも、ものは試しにと思って試着してみて、眼から鱗が落ちました。
ジーンズは1870年代に開発された、150年近くの歴史を持つファッションアイテム。
昔ながらの特色を堅持したものもかっこいいとは思いますが、やっぱり履きにくいといえば履きにくいものです。“ジーンズ離れ”が進んでいると言われるようになって久しいですが、その理由は、進化しなかったがために時代が求めているものと乖離してしまったからなのではないかと思うことがあります。
その点、グラミチのデニムパンツは機能性豊かでとても履きやすく、スリムフィットのスタイル性も抜群です。
デニム文化が廃れてなくなってしまうのは寂しいけど、グラミチのようなブランドによって生み出されるこうした“進化形デニム”が、その文化を守っていけばいいような気がします。
この秋は、スラックスタイプの布帛の「ニューナローパンツ」も狙っています。これ、きっとゴルフの際に最適だと思うからです。
私のグラミチコレクションは増加の一途。
つまり、それだけ魅力のあるブランドということなのです。